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こういう感じになったのは何年ぶりだろうか?二年?三年?わからないけれどこれって……清志に抱いた感情と同じ。


好き


海に飛び込む。海水が目に入って痛い。滲みる。これも嫌い。プールに入ってたらこんなことならないのに。


『っ……』


痛みで肺いっぱいに吸い込んでいた空気を吐き出す。
少し泳いだところで体を仰向けにする。鼻を指でつまむ。
どんどん重力に従って落ちていった。柔らかい砂の上に体が受け止められる。


『っぷは……』


ぐん、と砂を蹴ると一気に明るくなってボヤけていた視界が晴れる。


「棗!!!!」


『!……大輝』


「いきなり飛び込んだと思ったら海から出てこねぇから焦ったろ!!?」


名前を呼ばれて振り返るとそこにいたのは焼きそばを押し付けてきてしまった大輝で、焦った顔で私の頭を叩く。

力が強いんだからやめて欲しい。痛いからね。


『……な、んでも、ない』


好き≠チていう想いがいきなり浮上してきてまともに彼の顔が見れない。言葉がうまく出てきてくれないのが何とも女々しい。


「ったく。息ちゃんと吸えてねぇんだろ?顔真っ赤だ、馬鹿」


『うる、さい……』


「あっそ。あ、そうそう。焼きそば悪かったな。綺麗に完食したから」


『ふーん』


素っ気なかったかもしれない。せっかく心配してくれた彼をおいて私は泳いでその場を離れる。
お礼も言っていないのに……清志の時はこんな風じゃなかったのに。もっと、積極的だったというか。
清志の時とは違うってこと?


『っぅう……』


頬を押さえると熱を持っていることが自分でもわかるほど暖かかった。海から出てきたばかりなのに、熱い。


「ナツちゃーん!競争しようよ!!バスケ部VS水泳部でさー!」


そんな中無神経にも走ってきたのはナギだ。彼の後ろにはカラフルな集団とハルたち。
ハルと凛、真琴は既に濡れている。竜ヶ崎くんはどうやら砂浜で埋まっていたようで首から下は砂だらけだ。気持ち悪くないんだろうか?
ナギは竜ヶ崎くんを埋めていたんだろう。スコップを片手に持っている。


『え?私一人女子?さつきちゃんが一緒に泳いでくれんの?』


「え?無理」


酷い。


赤司くんが戦う順を決めてくれたらしい。リレー形式で型は何でもいいらしい。フリーでも、バッタでも、ブレ、バック。なんでも。


一番目は紫原くんと私。身長差を考えて欲しい。50cmほど、違うんだけど。
それはさておき、二番目は黒子くんと真琴。三番目はきーちゃんとナギ。四番目は緑間くんと竜ヶ崎くん。五番目は赤司くんとハル。六番目は大輝と凛。
赤司くんならてっきり最後にやりそうなのに五番目だったのが驚きだった。


「よろひくねー、ナツちん」


『手加減おねがいします』


「棗ちゃん!頑張れ!」


『はーい』


ちなみにさつきちゃんは審判です。
さて、始めよう。ルールは簡単。
海の上に浮かんでいるブイまで泳いでいってそこから帰ってくるだけ。浜辺にいる人にタッチすれば交代となり、次の人が泳ぐことができる。


スタートは浜辺。走りにくい、飛び込みにくい、気持ちが悪い。その三つが重なっている浜辺からスタート。嫌になるね。


「じゃあ並んで!行くよ、よーい……スタート!」


走り出した瞬間……





転んだ






『っぶ!?』


「え?」


「敦、止まるな」


酷いな、おい。
勝負なのでしかないのでしょうが。そこは一言でも心配した言葉をかけてくれてもいいじゃないか。


『……っごめん!みんなっ』


「大丈夫なら走れ」


『おすっ!』


砂浜って滑るのね。口に入った砂を汚いですが吐き出し海まで走る。さすが運動部。紫原くん、無茶苦茶早いよ。

不利過ぎでしょ、私。


『取り敢えずっ、と』


深いところからスピードをあげて泳ぐ。
ゴーグルしてるから目は痛くない。ただ、口の中が塩辛い。
チラリと水中で横を見れば紫原くんとすれ違った。もう彼はブイに到達して帰って行っているようだ。転んだところとか体の大きさ、それに性別の違い。
全部負けてるけど、嘗めないで欲しい。


『ぶはっ、――――っ!』


私はクロールが得意なんだよ。例え体格差を感じさせる競技でも得意なものが、誰かよりも特化している物があれば有利になる。


私は、水の中だけなら肺活量が半端なくあるから、これくらいの距離だったら紫原くんみたいに毎回息継ぎしなくてもいい。



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