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大輝は無事合格しました!どうやらギリギリだったようです。

まぁ、受かったならそれでいいか。


唐突だけど、この水泳部、去年作られました。いきなり部活は作れない。色々なところに申請を出さなくちゃいけない。パッパ、と作れるものではない。

でも作ってくれたのが凛たちだ。


『ねぇ、凛?』


「んだよ、んむ」


『あむ。このオムライス美味しいよ?』


「ふーん。俺こっちのが好きだけど……チキン南蛮」


『……高カロリー』


「いいんだよ、泳ぐし」


只今食堂で私はオムライス。凛はチキン南蛮を食べている。
ここのオムライスは美味しいと私は思う。ここで鯖とは会わないことを思うと嬉しく思う。ハルが晩御飯、朝ご飯当番だと鯖が出てくる。


『もう鯖はいや』


「あー。あいつと住んでると必然的にそうなるんだな」


『うん』


「お前の好きな食べ物って何?」


『……玉子焼きとか。だし巻き卵とか、目玉焼きとか……』


「全部卵関係ッ!?」


『美味しいから』


私は料理なら大体普通にできる。でも、卵料理だけは天才的だと思う。
そりゃもう、美味しいと自分で誰かに自慢できるであろう自信がある。


『今度またうちに来て?親子丼なるものを作ってあげる。卵料理は天才的だから』


小学校高学年くらいからの練習の成果だと言ってもいいだろう。

まぁ、別にそれだけが得意とかではないけど。ハル好みに鯖を焼くのも天才的だろう。


「なぁ、棗」


『ん?』


コト、と食堂のコップを机においた凛は笑っていった。


「買いもん、付き合ってくれねぇか?」


『何買うの?』


「水着とゴーグル。水着とゴーグル共にゴムが馬鹿になった」


『凛はゴーグルをはめたり取ったり、バチバチするから馬鹿になるんだよ』


癖が未だに抜けていないようで、相変わらずゴーグルのゴムを引っ張りパチンと言わす癖は、こちらに来ても直らないよう。

水着は仕方ない。高校から使ってると言っていたからだ。


『どこ行く?うちの近くでいいの?あそこ狭いから大型の方いく?』


「ああ。そっちのがいいな」


『ハルとか、真琴とかは?一緒に行く?』


「いや……それは今度でもいいか?」


『わかった。えへへ、私も水着買おっかなぁ……私も凛と同じで高校から使ってるんだよね。段々小さくなってきた気がするし丁度いい』


洗濯のしすぎで縮んだのか、成長したのかだ。果たして水着は洗濯して縮むものなのか?

そんなことないと思うけどね。


『明日?』


「ああ。行けるか?ちょうど俺は講義ないから……」


『えーと、待ってね』


鞄の中からスケジュール帳を取り出して見る。
ハルに貰った魚がたくさん乗っているスケジュール帳だ。
リアルな魚じゃなく少しミニキャラのようになっている魚だ。


「あ、鯖」


凛の声は無視しておこう。
とりあえず明日は……。


『午後からなら行ける。朝は講義あるから……いい?それで』


「ああ。じゃあ、明日な」


『あ、食べ終わったの?明日ね〜』


いつの間にか食べ終わってたらしくチキン南蛮の皿を返却、と書いてある場所に返しに行った凛。

まぁ、凛はイケメンだ。
声をかける人も少なくない。特に三回生以上の人。


「松岡くーん」


「……何すか?」


「今日暇?」


「いや、部活なんで……」


「ええー、いいじゃん!彼女いないんでしょ?遊ぼうよ」


ちらりと彼女、と言う言葉を言った女性は私を見てからいやらしい笑みを向けてきた。

イラつく……。


「……彼女いたらもう誘ってきません?」


「そりゃぁ、ね」


「はぁ……ったく、言うつもりなかったのにな」


「え?」


え?凛、彼女いたの?
人懐こい笑みを浮かべて食器を返し私に向かって歩いてくる。

まだ、食器を持ったままだったのは可哀想だった。やっと片付けられて安心しただろうね。


「俺の彼女、こいつ」


『え?』


「え?」


勿論、そんなこと知りません。というか、こんな沢山人がいる食堂でそんな宣言……


「な、棗。俺たち、付き合ってるよな 」


ここは、ドラマのように話を合わせろということなんだと思う。こういうシーン、よくあるから。
昼ドラとかで特に。


『そうだよ。だから、凛に触らないで。さっきからベタベタしてるの我慢してるんだから』


「そういうこと。いくぞ、棗」


『ん。返してくる』


「やっとくから外出とけ」


『……早く来てね』


いろんな意味を込めてそれをいうと引き攣った笑顔で返事をした凛。
カバンを持って食堂からでる。
ちょうど鉢合わせしたのはさつきちゃんと大輝だった。


「「あ、棗/ちゃん」」


『こんにちは』


「こんちわ。どうした、疲れたような顔して」


『いや、ちょっとね』


「だーかーらー、付き合ってるって言ってんじゃないっすか!」


「証拠は?ないの?」


「は?証拠ぉ!?」


そう言えば凛の好きな人の話聞いたことないな……誰かちゃんと好きな人が彼にはいるのだろうか?

沢山の女性を引き連れて食堂から出てきた凛の顔はとにかく焦っていた。


「恋人同士ならキスくらい簡単でしょ?」


「『は?』」


「チッ、棗、じっとしてろ」


私は大輝の隣にいたはずなのにいつの間にか凛と向き合う形になっていて……



キスしていた。



いやまぁ、ありきたりなほっぺだけど。


『っ……!』


「……これでいいだろ。行くぞ、棗」


肩で顔を隠しながら私の手を引っ張る彼は昔から変わってなかった。いや、変わっているのかもしれない。

いつからこんなに逞しい背中になったのだろう。


『っ凛……バカ』


ちらりと大輝とさつきちゃんを見ると何かにショックを受けたような顔をしてその場にたっていた。


大輝……?


クソっ、そういった彼はさつきちゃんを置いてその場から離れていった。
それが無性に悲しくて、虚しくて。

私は凛といけないことをしたような気分、罪悪感に襲われた。


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