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ああ、またやらかしたな。

私の頭の中で浮かんだ言葉がこれだ。


「起きたか?」


『宗介……。はよ』


「ああ」


相変わらず凛の前以外では無表情だ。
宗介と出会ったのは1年前だ。私が高校三年生、ハルたちがこっちに来たときに凛が紹介してくれた。
それから結構気の合う友達としてたまに会うのだが……。


『……ハルは?』


「…………まだだ」


『何時?』


「18時」


またか
またあの人は帰ってきてくれなかった。
宗介は苦い顔をして凛を呼びに行くと言い部屋を出ていった。


『……何で、なの?』


「何がだ?」


『…凛』


「体温計。一応測っとけ。腹は?減ってるか?」


脇に体温計を差し込むと凛の問に首を横に振った。
お腹は、減ってないから。


「で、何が?」


『どうしていつも熱出した私の隣にいてくれるのは凛なの?』


凛が嫌だとか、そういう概念はない。だけどお母さんもお父さんもここにはいない。ここにいるのは二人きりの家族になのに何故一緒にいてくれないのか?


「俺じゃダメか?」


『違う!』


いつもそう

凛が引っ越してくる前も、後も。凛が引っ越してくる前は真琴だった。
凛が来てからは、凛と私が仲良くなってからはずっと一緒にいてくれたのは凛。


『私達家族だよね。なのに……一緒にいてくれない。心配してもどっかに行く』


「理由は知らねぇよ。だけどあいつはお前のことを絶対に心配してる」


『わかんないよ。だって私が熱出して一緒にいてくれた記憶なんて片手で数えるくらいしかない』


凛もわからなければ誰が知ってるんだろう。


「七瀬は」


『「!」』


答えは宗介だ。


「いっつも泳ぎに行ってるよ。お前が熱の時」


私より水なの?あの人は。


「たまたま会ったときに言っていた。

俺のせいであいつが風邪をひいた

またある日は

俺の不注意だ

お前のことを考えてると頭が回らなくなるからそんなのなくすために泳いでるんだと。それとお前からの連絡を待ってる」


私からの、連絡?


「棗は今まで熱を出していてあいつに電話したことは?」


『ない』


「きっと七瀬は頼って欲しかったんだと思う」


私のベースはハル、お兄ちゃんだから。
ハルも他人を頼ることを苦手とする。真琴が勝手にわかってくれるから何も言わないけれど、近しい者ほど言いづらいらしい。

それは私も同じだったりする。


『あの人は……馬鹿だ』


「今頃真琴を巻き込んで泳いでんじゃねぇのか?ハルは……電話してやれよ棗」


凛が笑って私の携帯を渡してくる。
かけるつもりなかったのにそんな顔を見たらかけなきゃと思ってしまう。


画面をタップして暗証番号を入れ、電話帳を出して、電話をかける。
この動作だけでも無駄に長かった。


〈……棗?〉


『うん』


〈どうした?〉


『どこ、いるの?』


〈え?〉


『プール?ねぇ、どうして?帰ってきてよ!』


〈……!〉


『寂しいよ……ねぇ、お兄ちゃん』


〈もう帰る。悪かったな〉


『ううん、平気。早く帰ってきてね』


ああ、短い返事を聞いた瞬間切られた電話。きっとシャワーを浴びてすぐに帰ってきてくれるはずだ。


『凛……』


「何だ?」


『ありがとね。いっつも』


「気にするな」


私の大切な人。きっとこれからもずっと一緒にいるのだろう。
でもわからない。もしかしたら何らかのアクシデントがあるかもしれない。

……と言っても意味ないのは知っている。


「ほら、これはハルに。こっちは棗にだ」


『ありがとう!』


卵粥がそこにはあった。私の席の前には、和食が並んでいた。ハルの好きな物ばかりだ。
本当に凛は料理がうまい。今度また何か一緒に作ってもらおう。


「ただいまっ」


『おかえり』


「山崎、凛、悪かった」


「気にすんな。行くぞ、宗介」


「ああ。またな、七瀬兄妹」


バタン、と扉が締まる。


珍しく私からハルに抱きついた。正面からは嫌だったから背中から。


「っ、何して……」



『おかえり。もう、どこにも行かないで。熱出したときは寂しいんだから……おいてかないで』


「……ごめん。それと……ただいま」


その後、凛が作ってくれたご飯を食べてお風呂に入って寝ました。



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