1「寝ちゃったの?」
「んぁ?まぁな……」
「手、出してないですよね?」
「はぁあ!!!!!???」
「ちょ、起きますよ!」
「むぐっ」
口を抑えられる青峰くんは怪しげな反応を見せた。
その時に直感する。
ああ、したな。
「…青峰くん……寝ている相手に卑怯だと思いません?」
カマをかけてやるとほら、直ぐに崩れる。
「な、起きてたっつの!」
僕の手をその大きな手が振り払う。
まあ、案外簡単に青峰くんはハマってくれるので嬉しいです。
「だ、大ちゃぁあん?何かしたの!?」
「ゲッ……テツてめぇ……ハメやがったな?」
「いえ、別に僕はそんな気なかったですよ?青峰くんが勝手に言っただけです」
ワザとらしく盛大にため息をつくとバツの悪そうな顔をして僕から顔をそらした。
そんな顔するくらいならやらなきゃいいのに。まぁ、理性が青峰くんには少々耐えられないくらいのものだったんでしょう。
「なんか、突然こう……」
「てかその手は何ですか?」
「は?これ?外れねぇの」
彼がなぜ立たないのか不思議に思ったら布団からこぼれ落ちている手が青峰くんの手をそりゃもう離すものかと言うくらいにガッチリ掴んでいた。
確かにこれでは立てやしないだろう。
無理に解くなら別ですが。
「……全く……棗さんは。男は狼だと言うのに」
「いや、そんなことねぇだろ」
「何かしたあなたが言わないでください」
「お、おう」
「遙さんには何ていうんです?もし棗さんが覚えていたら」
浅黒い顔は基本顔色はわからないけれどきっと今ならわかる。
蒼白だ。それも、恐怖で血の気が引いた。
「こ、殺される。この状態でもやばいのによ……」
「骨は拾わず捨てておきます。安心して逝ってきて下さい」
「いや、酷すぎるだろうが。ちったぁ、助けようとか思おうぜ」
「青峰くんですから」
「……ったく、これいつ外れると思う」
これ、とは繋がった手。
しかし、遙さんはいつ帰ってくるんだろう。講義なんだろうけど……あの人のことだし今日は休むと思っていました。
「さぁ?それは棗ちゃん次第よ」
さつきさんが棗さんの頭を撫でる。優しく撫でる彼女はまるで母親のようだった。
きっとお母さんになるとああなんるんでしょうね。
「どうした、テツ。顔赤いぞ」
「え?や、何でもありませんッ。……それより遙さん、遅くないですか?」
「何時までなんだろうね。遙先輩のことなら今日休むと思った」
やはりそれは誰でも思うことなのでしょう。あの人の妹溺愛っぷりはすごいですから。
表に出しはしませんが見ていたらわかります。絶対遙さんの目線の先を追うと棗さんがいますから。
シスコン全開のイケメンさんです。
「おーい、棗〜?」
「あれ、この声……」
「凛先輩だね。ちょっと挨拶行ってくる」
「凛?松岡か」
「青峰くん、松岡さんは先輩ですよ」
「んなもん、一年早く生まれただけじゃねぇか」
確かに青峰くんが言っていることは最もですが……それでも年上ですからそんなこと言ってられませんけど。
僕らよりも世の中を知っているのだから。少なくとも大学内のことなら僕らよりもはるかに知っているはずだ。
「ああ?アホ峰もきてんのかよ!」
「おい、てめぇ松岡……ふざけんなよ?」
「あれおかしいな。お前の名前アホ峰じゃなかったっけ……」
「凛、よせよ」
「だけどよ!」
「……凛」
「ッチ、わぁったよ!」
松岡さんの隣には見たことのない大柄な男の人。
どうやら松岡さんとは同い年のようだ。
「えっと……そちらは?」
さつきさんが聞くと松岡さんは思い出したように笑う。
松岡さんの笑い方は青峰くんに、似ている。口角の上がりようとか、目もととか。
まぁ、どうでもいいんですがね。
「こいつは……」
「宗介。山崎宗介だ。よろしく」
「遮んなよ。こいつ、大学違うけど俺の親友だ。ちなみに棗とは……」
「友達だ」
まぁ、松岡さんのあの顔のとおり本当に親友で棗さんの友達なのでしょう。
それより……何と言うか……遙さんに似てますね。
「皆さん話すならリビングの方に行きませんか?棗が起きちゃいます」
さつきさんの言う事が最もだったので部屋から出ようと思ったら言われると面倒くさいことを山崎さんが指摘する。
「立てないのか?青峰は」
「……!」
「そういやお前……ん?その手……!」
「ああ、握ってたのか」
「違っこれは、だから」
「青峰、お前何してんだよ」
だが無理いうことは松岡さんも出来ないのだろう。無理に外してしまえば棗さんが起きてしまう可能性の方が高いですし……そんなリスクの高いことを彼がやるとは思えない。
だが以外にも限界だったのか青峰くんが行動を起こした。
「おい、棗。棗!」
『っは……?』
起きた彼女の第一声。
『おにーちゃんは?』
まさかの遙さんをいつものハル、ではなく、お兄ちゃん呼び。
松岡さん以外みんな揃ってオウム返しに
「お兄ちゃん!?」
と声をあげた。
prev|
next