1今、家からずっと無言な大輝の隣を歩いています。でも、本当に無言で何も言わないし笑いもしない。正直言ってつまらないし、怖い。
「ねぇ、大輝」
「……あぁ?んだよ」
「私何かした?」
「別に」
私をずっと見てきたかと思ったら直ぐに前を向いて歩き出してしまう。……何さ、淋しいじゃん。
でも、歩幅を合わせてくれるところが優しいのだ。
「大輝ー、何食べようか」
「お前はまず食いもんかよ」
溜息ついてからの一言。何だ、話しかければちゃんと返してくれるじゃん。自ら話しかければよかった。
「悪い?」
「いや、」
ようやく話しかけてもいい頃かな、そう思ったらほら、やっぱりそのとおり。
顔はこちらに向かなくても笑ってるし、話してくれる。何があったのか分からないけれど、楽しまなきゃ損してしまう。それは勿体無さすぎる。
「俺は……焼きそば」
「あ、じゃあ、私のたこ焼きと半分こしよう!」
二つとも青海苔乗ってるからとか、気にしない。美味しいもん。歯に青海苔ついてたら恥ずかしいけど、いいや。私ズボラだから。
「へーへー」
そう言えば、私は大輝に焼きそばを取られて、その時に恥ずかしくて、好きなのかもって思ったんだった。
あー、思い出しただけでも恥ずかしい。
「その次にりんご飴食べて」
「ふーん」
「あ、唐揚げとかどう?」
「女子なら少しは気にしたらどうだ」
「何を?」
ああ、ようやく笑った。すっごい嫌な笑いだけど。
「体型とか体重とか?」
そう、これこそニヤリという笑みなのだ。それが一番彼に似合う笑い方。キライじゃないけど、嫌な笑い。
別にいいんだけど、何かしたくなる。
「うるさい」
「っげほ!何すんだよ」
「え?背中殴った」
「いてぇなコノヤロー!」
きゃーきゃー言って逃げて。待てコラとか言いながら追いかけてくるガングロに笑って。
ああ、こんなのが青春なのかと思う。中学はそんなこと興味なかったし、高校は水泳に青春を注いだ。遅めの青春が、今来たのかもしれないな。
私別に、この関係でもいいや。今、この状況、瞬間が、私にとっては大切だから。
「ぎゃっ!?捕まったって痛い痛い痛いいぃ!頭グリグリしないでってば」
こめかみを万力のようにグリグリと押すものだから目から涙がにじむ。彼の力加減の下手くそさは言い表せない程のひどさだ。
「ちょ、聞いてるっ?」
すっと力がなくなったかと思うとその大きな手はこめかみからずれ、髪の毛をいじった。
そっと顔を上げると何とも言えない顔の大輝がいた。謝りそうなその口に手を当てる。
「ごめん、とか聞かないよ?」
「……ん」
笑った私の頭の上には大輝の大きな手があって。落ち着くんだ。
もしかしたら私は、彼のことを会った時から好きだったのかもしれない。隣に居たら落ち着くから。
「……行くか」
「おー!」
少しだけ甘えていいですか?
そう思って大輝の服を掴む。
隣を通り過ぎたカップルの手元を見ると繋がれている。羨ましいと思って、そうしたのだ。別に、手を握るのに躊躇してこうなったわけではない。
「……おい」
「んー?っ!!!!???」
ダイレクトに伝わってきたその熱に体が跳ねる。手を恐る恐る見ると浅黒い手が私の手を掴んでいた。包んでいたという表現は似合わない。だって、本当に掴んでいるから。
「いや、あのっ」
「んだよ……あんな人混みの中に入ったらはぐれるだろうが。はぐれたお前を探すのが面倒くせぇ」
指さされた人混みに確かに、と納得した。何百人といるのだろうか。家族、友人、カップル。そんな人達が集まっているそこに飛び込むのには勇気が少しいた。だけど、今は大輝が隣にいるからそれでいいや。
「……そうだね。ありがとう」
「おう」
ああ、うるさいうるさい。
心臓の音、止まれ。
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