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「コンビニ寄ってってもいいっスか?」


そうきーちゃん、もとい黄瀬くんが言ったので私はうなづく。買う物がなかったので私は外で待っていることにした。
店内に入ったら涼しいけれど、外に出た時のことを考えて突っ立っていた。


「……はぁ」


ストーカーはあの大会の日以来私の前には現れていないし、怪しげな手紙も送られてきていない。
諦めたのだろうか、そうおもっている。


今日はたまたま黄瀬くんと帰る時間帯が被ったために家まで送ってもらうことになったのだ。まぁ、一応モデルと言うだけあって変装らしいものはしている。


「……え?」


携帯から顔を上げたとき、道を挟んで見えた影。
ああ、あいつは……


「……黄瀬くんっ」


とりあえず道を挟んでいるからいいものの早く出てきて欲しかった。
黄瀬くんは何をしているのだろう。そう思った瞬間、自動ドアが開き長身がひょこりとでてくる。


「お待たせっスー……って、どうかしたんスか?」


「黄……瀬くん、アレ」


恐る恐る指さした先を辿る黄瀬くん。それから舌打ちをして携帯を取り出した瞬間駆け出していた。
持っていてと押し付けられたコンビニの袋にはアイスが二つと雑誌が分けられて入っていた。
二つということは私の分なのだろうか、なんて悠長なことを考えている暇はなく、とりあえずハルに連絡をした。
黄瀬くんも携帯を取り出したのだから誰かしらに連絡したのだろう。


「……ねぇ」


「え?あれ、石川先生」


「やっぱり!七瀬くんじゃないか」


「どうしたんですか?こんなところで」


そこに立っていたのは私の高校の時の担任だった。新任でまだ若々しい先生。


「いや〜、喉が渇いてね」


そう言って袋からアイスティーを取り出し見せてくれた。
新任でまだ若々しい、ということもあり、あまりこの人の授業は楽しくなく、憂鬱だったことを思い出す。人柄はいいのだが、授業が曖昧で、テストも微妙だった。


「どうだ?今は」


「え、まぁまぁです」


「おお、そうか……あ、そうだ!久々に会ったんだしゆっくり今度お茶でもどうだい?」


「え……っと」


今はあまりハルたち以外とは二人になりたくないのだけれど……。


「いいですよ」


この人は教師だし、一応顔建てということもあるのでお茶くらい許してあげよう。


「よかった」


「ナツっち〜!」


「あ、き……きーちゃん」


彼は黄瀬涼太でモデルだということを忘れていた。大声で名前を呼んでしまえば迷惑かもしれないので、急遽きーちゃん呼び。さつきちゃんも呼んでるし、嫌がりはしないだろう。


「に、逃げられちゃって……すみません。一人にして」


「いいよ、全然。それより、アイス溶けちゃってるかも。コンビニ入っとけば良かったね」


「いいんスよ。ってあれ?この人は……」


ニコニコ笑っている先生を見たあと首を傾げる。黄瀬くんに先生を紹介すると握手をしていた。


「ああ、七瀬くん。自宅の電話番号は変わってるかい?もし良ければ携帯か自宅の電話を教えて欲しいのだけれど」


控えめにそう言った先生に覚えている自分の携帯番号を言って、私と黄瀬くんはその場を立ち去った。


「ねぇ、平気なんスか?教師なのに電話番号聞いてくるとかおかしいっスよ」


「ん、平気でしょ。あの人は私の担任だった人だし。ちょっとお茶して世間話する程度だと思うよ、多分」


半分溶けかけてしまったアイスをスプーンですくって口に入れる。
冷たくて美味しいが、やはりキンキンに冷やされて口に入れた時に溶けるものの方が好きだ。口に入れる前から溶けているのはやはり美味しさ半減だと私は思ってしまう。


「出かける時、ちゃんと遙先輩とかにどこどこに行くって言うこと!わかった?」


「うん、ちゃんと言うよ。言わなきゃまたあんな顔させちゃうかもしれないからね」


泣きそうな、辛そうな顔を病室でさせてしまった。もうそんな顔は見たくないから。


「……怪しいっスよ、やっぱ」


「え?」


「いや、何でもない。ちょっと考え事してただけっス」


「黄瀬くんでも考え事とかするんだね」


「え、俺人間だからね。わかってる?」


「わかってるわかってる」


ちょうどアイスのカップが空になる頃、私はマンションに着いた。
黄瀬くんにお礼を言うと笑顔でどう致しまして!と返ってきた。それから手を振りエレベータに乗って携帯を開くとハルと凛と大輝から連絡の通知が入っていた。


「……結局、あの人なんだったんだろ」


思い出してみれば、身長がいつもより低かった気がするし、髪の毛が黒かった。
あのストーカーはフードから髪の毛が少し出ていたのだが、茶色い髪の毛だった気がするのだ。


「……気にしてても仕方ないか」


ハルたちにちゃんと連絡をし、ソファに倒れ込んだ。
つけたテレビはお笑いで、ちっとも笑えない二人組が出ていた。


「つまんないの」


そのままクッションに顔を埋めて息を思い切り吐いたのだった。


****


「……棗」


「……ハ、ル?」


「おはよう」


明るかった室内は真っ暗で、窓の外に目をやれば外は夜へと化していた。
静かで、家の電気の光だけが暗闇を照らしている。


「ごめん、ご飯作ってないや……」


起き上がって電気のスイッチを押した。どうしてハルは電気をつけてなかったのか。多分私を起こさないため。台所の電気がついているのはハルが料理してくれてたから。いい匂いがするのはもう既に料理を作り終えていてくれてるから。


相変わらず、優しくて自慢の兄だ。きっとこんなことをしてくれる兄なんて探しても見つからない気がする。
起はしないけれど、ご飯まで作ってくれている人なんてなかなかいないはずだ。それも、とびきり美味しい、


「鯖の塩焼きだ」


私の好物を。
流石に毎日のように口にしていたら飽きるけれど、ハルの作る料理で一番美味しいのはこれだから。


「ごめん、ありがとう」


「食うぞ」


「はーい」


これが兄なりの気遣いなのです。


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