1「……棗、平気か?顔色が悪い。昨日から治ってない」
「平気。ハルは泳ぐことだけに集中して」
朝から何度も何度もこの会話を繰り返していた。
昨日の吐いてから、まだあまり食べ物に手をつけていない。
お腹は減らず、最低なコンディションで私は今日の大会に挑む。ちなみにハルは明日だ。
「……わかった。でも、しんどくなったら」
「言うってば。しつこいなぁ、もう」
本から顔を上げ、ひと睨みすればそれ以上何も言わなくなった。
ハルが心配してくれてるのはわかってる。でも、本当のことを言って動揺させたくなんかない。それでタイムが落ちたら堪らないから。
「でも、ありがとう」
わかってるから、大丈夫。平気だよ、そんな顔をして笑いかける。そうすれば、眉間のしわが取れて怪訝そうな顔もやめてくれた。
電車に揺られること20分。目的地に到着。
「っ……」
ダメだ、フラフラする。……視界がぼやけて良くない。
さすがに寝不足&食べないのは危険だったかもしれない。食べれてもフルーツ程度だったし。
「棗?」
「ん、大丈夫。行こう」
さっき携帯を確認したら凛も真琴も来ているようだったし、早く行かないとね。ハルの背中を押しながら会場へと向かっていった。
****
「真琴、凛」
「お、棗」
「え?何で大輝とさつきちゃんまで……」
さつきちゃんが朝から真琴を訪ねたらしい。ここまで一緒に来たようだ。
少し話してからプールに入るために更衣室へと向かった。
「あいつ、顔色悪くねぇか」
「昨日吐いた」
「はぁ!?なんでそんな中で試合なんて……!」
「あいつは、何よりも誰よりも、優勝に貪欲だ。止めても心配しても、全部大丈夫、平気と返してくる」
「だからって!」
「凛、……棗は何かを今俺らに隠している。でも、それは今聞くことじゃない。あいつが隠しているなら、今黙っておこうと俺は思う」
「それが、もし大切なことだったら?」
「……多分、俺らの大会が終わってから言ってくれる。そう信じてるから、待ってる」
「…………わぁったよ!待ってたらいいんだろ」
二人は今、棗を止めなかったことを、隠している事を聞かなかったことをひどく後悔することとなる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
泳ぐ準備をしろと言われプールから上がる。水着が水を吸っていつもよりも重たく感じた。
いつも気持ちいい、水の中は重苦しくて息苦しい。
控え室に入りタオルを頭からかぶった。
「……っぅ」
さっきから頭痛がひどい。頭が割れそうだ。
でも、行くんだ。私は優勝しなくては前に進めないから。
prev|
next