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水泳、競泳は二つに分けられる。それは私の中で、だが。


一つは今まで見たこともなかった綺麗な世界、景色が見えた場合の泳ぎ。それが見えたらきっと泳ぎは格別に上手くなり、上達していく。再びそれを見ようという思いからだ。
もう一つは真反対。見たこともないほどの暗闇が見えてしまうこと。それが見えてしまえばもう泳ぐのが怖くなり、どこを泳いでいるか分からなくなる。どうしたらいいのかも。


『ちょっと外出てくる』


私の場合、それが見えるのは大会の時だけ。
普通に誰か見知った人と泳げばそんなことは起こらないし、恐怖に駆られることもない。


「ああ……気をつけろよ」


『はーい』


大会だと考えた時も見えてしまうのが現状だ。何故だろうか。答えは私が知るわけもなく、誰かが持ってくれているというわけでもない。


『……はぁ』


「何溜息ついてんだよ」


『ヒッ!……あ、大輝か』


「おい、ひっ、て何だよお前。……全く人が心配してやってんのによ」


後ろから突如聞こえた声に驚いて意外にも自分的にも可愛らしい声が出せたと思う。
髪の毛から滴るのは水か、汗かは不明だが多分汗なのだろう。そうとうキツい練習をしているようだ。


『赤司くんにも言ったけど……風邪引く。ちゃんと拭いてから外でなよ』


「過保護なババァかよ」


『そんなこと言って後で風邪ひいても知らないから』


持っていたタオルで大輝の巨体を叩く。
私の体を拭いたタオルなわけで結構水を吸っていた様子。痛そうな音が彼の二の腕から出てしまった。


「っい!?」


『ご、ごめん』


「許さねー!」


『ぎゃぁぁぁぁああ!』


腕を伸ばして追いかけられる。それを間一髪で避けると、鬼ごっこのような追いかけっこが始まった。
水泳もバスケも、よく足を動かすものだ。大輝がバスケも何もしてないひょろ男だったら逃げれる自信はたっぷりあった。
しかし、彼はバスケをしている男だ。逞しい足腰をしていて、いつも全力で走っている。そんな男と追いかけっこなどとしたらとうに結果は見えている。


『ひぎゃぁぁぁぁああ!』


「待て、コノヤロッ」


『あはははは!あはは、はは!』


掴まれたことにって空間ができたそこに大輝が腕を差し込む。そのままま脇腹で動き出したそれに体がくねる。


『ひぃぃぃいい!やめて、やめっ、ぎゃぁ!』


「バーカ!てめぇが悪ぃんだよ」


『ぎゃはは、あは、やめ』


それから見えたのは水色の髪の毛と黄色の髪の毛。
顔が見えなくても誰かくらいはわかる。
黄瀬くんと黒子くんだろう。それより見てないで止めて欲しい。そろそろ酸欠で横腹痛くなってきたから。


『大輝、まっ!あっち、』


必死こいて指さした先を見てから彼は小さな声で呻くと私から離れた。息切れが半端ない、今やばい。
横腹も痛いし。笑いすぎて。


「てめぇら見てたんなら言えよ……」


「いえ、ラブラブだったので遠慮しました」


『ラ!?』


黒子くん、何言ってるの、何言ってくれてるの。
収まれ私の心臓。今まで生きてきた中で初めてではなかろうか、こんなに活発に活動したのは。


「……何だよ。ラ、って」


『べ、つに……』


ねぇ、その反応期待してもいい?
顔愚か、耳まで真っ赤にしてるその顔、反応に期待してもいいですか?
違ったら恥ずかしいけれど、もしあっているのならば期待しちゃうよ?


「何ニヤニヤしてんだよ!」


『う、うるさいなー!放っておいて』


「は?てか何顔赤くしてんだよ」


『大輝もでしょうが』


「おま、馬鹿!」


『うおっふぇい!』


おっさんみたいな驚き方には突っ込まないで欲しい。むちゃくちゃ、おっさんのくしゃみみたいだけどね。
ハルによるとよく私は奇声を発しているそうだ。


て、そんなんじゃなくて。


『タオル投げんなよ……』


首にかかっていたタオルを私に投げてよこした大輝は逃げるように黒子くんと黄瀬くんの首根っこをつかみながらきっとバスケ部のほうだろう。そっちの方向に歩いて言ってしまった。


『ばーか……』


やっぱり期待してるってことは、私は大輝が好きなんだよね。


再び我武者羅に泳ぎたくなった気持ちを胸に上に羽織っていたワンピースを握り締めた。



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