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今日でナギたちが帰る日だったので見送ってきた。朝早く起きたせいで眠い。


「おい、平気か?」


『んんー、微妙』


「ハル、眠たそうだね」


「……眠い」


凛は私の心配を、真琴はハルの心配をした。
幸い、駅にはバスで行き来できる場所だったし楽なのは楽だった。面倒だけど。


『あ、赤司くん』


「赤司。流石だな、朝早い」


「帰ったのか四人とも。おはよう」


『おはようございます』


頭を下げると凛が隣からいなくなった。赤司くんの真ん前に立つ彼と赤司くんを見比べる。
赤司くんよりも凛のほうが大きいんだ……。


「おはよう、凛。それに得にも三文にも興味無いけれど早起きは三文の得っていうからね。何かいいことがあるかもしれない」


「へぇ、意外だな。そんなことお前でも思うのか」


「君の中で僕はどう捉えられているんだ?」


赤司くんはバスケ部の中では二番目に小さい。一番は黒子くんだ。
私の中では真琴が一番大きかったのに、大輝に会ってバスケ部のみんなに会って、世界って広いなぁと改めて気付かされた。
紫原くんは例外の大きさだ。彼は大き過ぎる。
隣に立っていれば大人と子供だと皆口にする。身長を気にしているのにみんな酷い。


『真琴もおっきのにバスケ部の中では普通だよね』


「うん、まあね。俺も初めは驚いたよ。俺はあの中では普通なのかな」


私の周りで一番大きいのは真琴だと思っていたからみんなに会った時は衝撃だった。
でも、黒子くんとか見て安心したけど。


「棗」


『え、何?』


「朝昼晩のご飯を作ってもらってすまないね。うちは……桃井が、ね」


『あぁ、そんなこと。いいよ、平気だし。それに大半は紫原くんとかハルとかが手伝ってくれてるから。こっちは泊めてもらってるご身分だからね。できることは何でもするよ』


「ありがとう、いつも」


凛との会話は終わったのか、こちらを向いてはにかむ彼が汗をかいていることに気がついた。
きっと今までロードワークをしていたのだろう。
天才だからといって努力を惜しまない。彼は天才って呼ばれているだけで努力家なのかもしれない。知らないけれども。


『ちゃんとシャワー浴びて。風邪引くから』


ベンチに置いてあった彼のタオルを手渡して朝ごはんを作るべくハルと台所に立った。
さて、今日も一日が始まる。


****


『さて、と。……今年は優勝するぞ!』


「あんまし気張りすぎんなよ。倒れるぞ」


『わかってる』


凛のその声にうなづいてプールに飛び込む。
水を掻くと白い泡が立った。泳いでるんだと実感する。
でも途端に真っ暗になって先が見えなくなった。
焦りすぎたのかもしれない。


『っぷは!』


ダメだ。真っ暗……


「棗……?平気か?今日は休め」


『ハル?平気だよ』


「お前の平気は信じられない。特にその顔してる時は」


どんな顔をしているのかわからないけれど取り敢えず酷い顔をしているのかもしれない。
もしかしたら大会が怖いのかもしれない。


『優勝、できるかな……』

そんなの、夢の夢の夢また夢の話だっていうことはわかってる。でも、みんなが目指すのは同じで優勝だということ。


「なーに弱気になってるんだよ」


隣に座ってきたのは凛だった。椅子が重たいとでも言いたそうに軋む。


『……別に』


「お前、あいつの二の舞になるんじゃねぇぞ」


あいつ、と彼が顎で指したのは私の兄、ハルだった。
言っている意味がわからず首を傾げると教えてくれるようだ。その話の内容に驚いて数秒固まった気がする。


『試合中に……足をつけた?』


「ああ、俺もあの時はあんなことしたあいつにイラついて怒鳴りつけたけど……ハルも怒ってさ、怒鳴り返してきたんだよなぁ」


『それいつの話?』


「……高3だから、二年前だな」


『ふーん』


ハルとの空白の時間は三年。その間で彼はかなり変わったと思う。
別に、目立った部分が変わったわけじゃないけれど前よりも自分がしようということには積極的になった気がする。水が全て、という彼の持論は変わっていないけれど、それでも、違うことにも目を向け始めた。
会った当初は驚いたし、見直した。


『一番怖いものって凛は何?』


「は……別に、あんまねぇけど」


『私はね、水が怖い』


「は?」


いとも簡単に人の命を奪ってしまう水が怖い。好きだけれど、怖いのだ。
好きなのに、怖い。矛盾している事くらい自分でも自覚している。だけど、私は一番怖いのだ。


「何でだよ」


『……水の中は苦しい。もがけばもがくほど息ができなくて怖いじゃん』


そのセリフは泳げない子供の言い訳のようだった。
子供のようでもいい、それでも私は怖いのだから。



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