2取り敢えず
《ご馳走様でした》
『お粗末様です』
美味しくいただきました。
『紫原くん、料理上手いね』
「まぁねー」
『私料理が上手い人と結婚しようかな〜』
「え?何で?」
紫原くんとは、あまりはなさないからこういうのって新鮮。だって、話してもお菓子のこととか、世界観が違うとか、スケール規模の話だとか。そんな感じだ。
こうやって、世間話とかはしないかも。
『何でって……家事が少しでも減りそう』
「棗、そうも行かないのだよ」
『んっ!?』
にゅっ、と緑間くんが食器を食洗機に入れるために来たのだろう。紫原くんの後ろから現れた。突如、だったため驚いたよ、心臓止まったかと思った。
殺す気か、まったく……。
『何で』
「夫は仕事をしているのだよ。そうすると、帰ってくる時間が遅くなる。だから、家事なんてしている暇などないだろう」
『ええー、主婦だって忙しいんだからそれくらいしてよね』
まぁ、無理なのは重々承知なんだけどね。
それに、そう思うなら結婚するなって話だろうし。結婚するのはその覚悟がなければいけないのだろう。
赤ん坊が生まれれば更に大変な事になる。でもやはり、手伝って欲しい。
『そっか……でも休日とか、結婚したての時は一緒に料理とかしたいなあ……』
「それも一理あるけど、やっぱり面倒なことは嫌い」
『ええー?』
「考えてみてよ。自分よりも料理が上手い人と結婚したら内心馬鹿にされてるかもしれないよ」
ああ、盲点だった。
確かに、料理上手な人がそういうこと言わなくても思っているかもしれない。
夫になれば、それは当たり前かも……。
最低なやつだ、そいつ。
『……料理がダメダメな人はぜっっったいに嫌』
「自分が辛いときに自分でやってくれなきゃ困るし」
「確かにそれもそうだな。風邪をひいた妻に料理や家事をさせるなど言語道断なのだよ」
ていうか、どうして、台所で結婚とかの話をしているの?わからない。
いや、発端は私か?
『まぁ、大人にならなきゃわからないこともあるよね。何れわかるよ、私にも』
今難しい話をされてもわからない。その場に立たなければ思わないこととか、思うこととか、たくさんあるから。
今はまだ先のことは考えないでおこう。面倒くさいから。
今は今。目の前に目標があるんだからそれ、乗り越えなきゃね。
『さて、この話はお開き。腹いっぱい食ったし……泳ぎますか』
「普通そういう時って女子は体型気にしないの?」
『ん?……食べた後だし腹はぽっこりしてるけど私は気にしないから。泳げたらそれでいい』
台所から出て、自分の部屋に向かった。
そこにはさつきちゃんの姿が。どうやら、動きやすいジャージに着替えたようだ。
私も水着に着替えようか。
「あ、棗ちゃん!ご飯美味しかったよー」
『本当?それはよかった』
「じゃあ、私先に行くね。お先に」
『頑張ってきて』
「棗ちゃんもね!」
しん、と静かになった部屋にはミンミンと懸命に鳴いている蝉の鳴き声しかしない。
私も蝉のように懸命に泳ごう。流石に七日で死ぬのは嫌だけど。
頬を叩き、気合を入れた。
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