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「ただいま。棗、手紙来てたぞ」


『おかえり。……!』


ハルの手には大量の手紙。全部名無しだそうだ。
ゾっ、とした。頭をよぎったのはあの男。誰にも言えないが、これは部屋で一人で読むとしよう。ハルに見られたりなんかしたら大変だ。


「どうかしたのか?」


『ううん。何でもないよ。ご飯できてるから食べよう』


「ああ。鯖じゃない……」


落胆した表情で私を見る彼の顔は悲しそうだったが無視した。昨日も鯖、一昨日も鯖、そのまた前も鯖。鯖鯖鯖鯖鯖!毎日鯖は流石の鯖好きでも無理がある。


『ごちゃごちゃ言わない。はい、食べる』


「……わかってる」


私がご飯作る日はいつもこんな感じだ。
まだ、キャンパスライフに慣れたか慣れてないのかわからないから、大概はハルがご飯を作ってくれてる。だから、毎日鯖になるわけだが……なにしろ、味噌、塩、そんな感じにしかアレンジできない。考えるのが面倒くさくなったときは食パン鯖になる。焼いた食パンの上に焼いた鯖が乗っけられるのだ。


不味くもないし、どちらかというと美味しいし私は好きだが……そればかりはやはり飽きる。


「……野菜ばっか」


『健康的でしょ?ハルのお弁当は白米と鯖しか入ってないし、食堂行っても鯖とご飯のセットしか頼んでない。ダメだからね、健康に悪い……』


「わかってる」


『さっきからそれ言ってるけどわかってないでしょう?もう……』


パクパクと適当に作ったものを口に運ぶ。まぁまぁ、上達してるねって感じ。
前は不味くて食べらんなかった。ハルが料理全部やってくれて美味しかったし、服のボタン取れたりしてもハルが付けてくれたりしてました。

家事は一切できなかったよ、私。


「上手くなったな。……美味い」


頑張った理由はこの言葉と、その笑顔が見たかったから。ハルが作ってるの必死で見て、その技術盗んで。sugarとsaltを見間違えて甘いモノも作ったり辛いクッキー作ったりと大変だったけど。


『明日は何がいいー?』


「……鯖」


『わかった。シチューね、暑いけど』


「おい」


『何?』


「いや……何でもない。ご馳走様、美味かった」


『お粗末様です』


素っ気なく言われ自室に引っ込んでしまった私の兄はツンデレです。しかも、ツンツンツンデレ。デレはたまにしかない、それが私の兄です。そしてこれがいつものご飯情景。


****


さて、私の手には名前も何も書いていない、いや、私の名前だけしか書いてないその封筒を開ける。
とりあえずひっくり返すと写真が出てきた。水に次。次次次次……写真と手紙ばかり。書きためていたのだろうか。


『うわっ!!!??』


手にとってみたら私の写真ばかりだった。
やはり、姿から見ても典型的というか、やり方が古いというか。


……それよりも、この写真をどうやって集めたのかということだ。
私の水着の写真から着替えている最中のもの、さつきちゃんといる物もあれば大輝や凛、真琴、ハルらしき人もいる。だけど、大輝と凛の顔はカッターで切り刻まれていたり油性ペンで塗りつぶされているものばかり。


『うん。キモイ。キモすぎる。……凛たち、呪われてなきゃいいけど』


何かここまでされてたら呪われてそうだよね。
てかこの写真ひどい。遊園地のものだ。
……その時から付けられてたってこと?気づかない筈がないじゃん。あんな、目立つの。
いや、常にあの格好なわけないか。


『うわ、引くわー』


いや、もうこれ誰にも見せられないような内容だよ。ダメだろ、手紙にしちゃ。貰った相手によっては悲鳴を上げるぞ。
手紙まで引く内容だとは。これってやっぱり……ストーカーですよねー。
うん、警察にこれ突き出したら指紋検証とかしてくれるのだろうか。いや、何かでもこの写真を見せるのも……。


『よし。自分でサクッと解決だ』


ネガティブ思考に走ったってウザったいだけだ。だったらポジティブに考えてうじうじせず解決してぐっすり寝よう。よし、それがいい。
別に手を出してこなさそうだし、マンションだから、下着泥棒とかもない。
気にするところといえば更衣室の中だろうか。真っ裸を撮られていないとは言いきれない。男が持ってる可能性もあるわけだし……。


『あぁー、寒気してきた。さっさと寝よ』


課題提出期限はまだ先だ。徹夜してでも終わらせればいい。
それに、大概は引用だとか感想だとか書いておけばそれでいいのだから徹夜でもいけるはず。


『風呂、入らなきゃ……』


プールに入った身だ。洗わないと気がすまない。いくら室内プールだからといって汚いものは汚いだろう。
つか、プールが室内と屋外二つあるってどういうことだよ。と、入学当初思った。と言っても、屋外はなかなか使わないが。たまーに、春とかは使うようだ。桜のプールーだー!とか喜びながら。


『はぁ……』


明日またついてこられたらガツン、と自分は言えるのだろうか?言えない気がする。
こういう時に限って私は気が弱かったりする。いつもの強気はどうしたと聴きたくなるほど。


『うううー……』


最悪だよ、夏休み。
いやまぁ、夏休み以前にもう直ぐ合宿もあるんだけどね。
ほっといたらそのうち無くなりそうだし、取り敢えず放っておこうか。



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