2『へ?』
何かを、こないだの後に言ったのに聞き取れなかった。きっとメットのせいだろう。
頭を完全に覆っているそれは耳まで覆っているため聞こえが悪い。
「なんでもねぇよ。ほら、」
バイクに跨った凛の後ろに乗る。
『……どこ、掴んだらいいの?』
私も一応女の子ですから。
そういうところは気にします。そんな思いとは裏腹に腕を捕まれ凛の腹に回される。
間抜けな声を出したら笑われてしまった。
「落ちたら死ぬんだからちゃんと掴んどけ。いいな?」
きっと、ライダースーツが似合うんだろうな、凛は。細身だし。
それより、凛薄い。女の子は胸があるし分厚いんだけど横から見てても思う。凛、薄くないか?
『恥ずい、です』
そんなことよりも、密着してることが恥ずかしい。
こういうことを私は高校も中学もしてこなかった。部活部活と青春を全て部活にぶち込んだ。ていうか、あれはちゃんと青春を謳歌していたのだろうか。疑問に思ってしまうほど部活に打ち込んでいた。
「いくぞ?」
『……ん』
バイクって馬鹿みたいにでかい音がするから嫌い。でも、風を切って走るから気持ちがいいこんなの、初めてだ。
『んんー、きーもちー!』
「だろ?」
どこのリア充だ、そんなことが頭によぎったが気にも止めなかった。
だって楽しかったから。でも、楽しいのなんてあっと言う間。
だいたい駅から数十分電車に乗るくらいなのでバイク何かで行ったら直ぐに着いてしまった。
『ふはぁ、楽しかった』
「すごーい、バイクってこんなのなんだー」
『「ん?」』
隣りを見るとピンクのログストレートの髪を揺らしながらメットを取る女性。
しかも声からして聞いたことがある。そう思って二度見すると……
『さつきちゃん……』
「棗ちゃん……」
そして隣に立っている男の人を見れば、黒子くんではなく大輝だった。
まぁ、黒子くんにはこんなに大きな二人乗りのバイクは言っちゃあ悪いが似合わない。
「何でてめぇが棗といんだよ」
「青峰には関係ねぇな」
「んだと?」
『はい二人とも、ストップ!喧嘩してないで暑いんだから中入るよ』
何だ、さつきちゃんが午後誘ったのは野生児の大輝のお世話見かな?
さつきちゃんだけじゃ、大変だからね。
「お、おう」
「わかった」
さつきちゃんの隣を歩く。日傘をさして凛を中に入れた。意味がわからなさそうに首をかしげたので日焼け防止ではなく暑さ対策だと言った。
『凛のがデカいんだから持って』
「わかってるよ、今持つとこだったんだよ」
『はい』
そう言って日傘を渡してさつきちゃんの横を歩く。大輝は私たちよりも一歩後ろで歩いていた。
『私たちこっちだから、じゃあね、さつきちゃん』
「ばいばーい」
凛の服の裾を握って引っ張って歩いていく。
『凛、私も水着買うから付き合ってね』
「わかってる」
そう言って凛のゴーグルと水着を見ることに。
****
『うん。凛は短いのより長いのが私的には好き。短いのはハルか渚とかしか似合わない気がする』
「そうか?」
『うん!』
その姿を見ると恋人同士みたいだ。
大ちゃんはどっか行っちゃうし……バッシュの売り場行ってもいなかった。酷い。おいてくなんて。
『私はどうしようか……』
「色は?」
『青とか好き。ハルの目の色!』
「お前ホントブラコンだよな。それをあいつにも見せてやれよ」
『やだよ。凛だけでいいの、こういうの知ってるの』
やっぱり、凛先輩は棗ちゃんのこと好きなんだな、っていう気持ちがすごく伝わってくる。だって目がね、優しいの。家族愛とかではなくて、本当に大切なんだなぁっていうのがわかる。
『これ以上シスコンになられたら困るよ。まぁ、ハルとは棟が違うし会わないのが救いって感じ。会ったら会ったで何か言われそう』
「ククッ、そうだな。ハルはそんな奴だかんな」
『そーそー。話変わるけど、そう言えばビックリしたんだよ。ハルが競泳やめるって言い出した時』
「あー。いつだったっけ?」
え?遙先輩、競泳やめるって言い出したの?
ここから先は聞いちゃいけない気がしたのに、聞きたくなってしまった。
『中学の時だよ。それに、おじいちゃんの時とかむちゃくちゃムカついた。だって帰ってこなかったんだから、じーちゃん呼んでたのに』
「あれはしゃあねぇよ」
『許せない、水を優先させたアイツがっ、てずっと思ってたんだけどね。まぁ、もういいけど』
クスクスと楽しそうに笑いながら棗ちゃんも水着を選び出した。
女の子用のブースに行ってしまった彼女はもう見えない。
でも、そんな過去あったんだ……。
棗ちゃんあんまりそういう家のこととか話してくれないし、言っていいことと言っちゃいけないことの区別がたまにつかなかったりするんだよね……。
悲しそうな顔するときとかあるし……それを見たくないからさりげに聞いたりするのにダメ。
「はぁ…頑張ろうっ」
「何にだ?」
「きゃぁっ……!あ、大ちゃん!!どこ行ってたのよ!」
肩に乗せられた重たい頭。
びっくりして小さい声で悲鳴をあげちゃったじゃない。もう、心配したのに。電話も繋がんなくて。
「何でもないよ。買えたの?」
「迷ってるからお前を探しに来たんだろうが。ほら、行くぞ」
腕をきつく握られそのまま連れていかれてしまった。
大ちゃんは棗ちゃんの水着とか興味無いのかな?
あ、そっか。このひとおっぱい星人だった。お世辞にも大きいとは言えない棗ちゃんには興味ねぇよってか!もう、最低。
「……ばーか」
「何が?」
「口に出てんだよ。だーれがおっぱい星人だボケぇ」
「えっ!?……だって、おっぱい星人じゃない。違うの?」
「……それは理想だろ。好きになったやつが必ずしもそうだって保証はねぇよ」
……大ちゃん。大人になったんだね。
こういう体験、きっと初めてなんだと思う。大ちゃんから色恋沙汰の話を聞いたことはないから。だから、焦ってるんじゃないかなぁ、一応。
凛先輩とか、遙先輩とか、バリケード高いし。
「大ちゃん!私は大ちゃんの味方だからね!頑張ってください」
「あ?お、おう。何が?」
「んーん!何でもないよ」
「あっそ」
「そう言うそっけない態度がダメだと思うなっ!」
「は?」
大ちゃん、もしかして……自分が棗ちゃんのこと好きって気づいてない感じ?
それってやばくない?
はぁ……もう、見ててイライラする。
prev|next