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「コイツ昔はハルのこと、お兄ちゃん呼びだったからな」


そう言って棗さんに近づく彼は手を伸ばして頭を撫でる。


「はよ。どうだ、調子」


『凛ちゃーん!おはよう!』


「ダメだな、熱高すぎておかしくなってやがる。棗、寝ろ。ほら」


『やだよーだっ!』


完全に子供を見ている気分です。
笑い方とか、全て違う。まぁ、当たり前なんでしょうが。


「寝ろって」


『凛ちゃんも一緒に寝る?』


「バーカ、そんなこと言ってねぇで寝ろってば。それともなんか食うか?」


こんなもの慣れている、そんなオーラを出しながら棗さんを布団に突っ込んだあと再び頭を撫でる。

一緒に寝ると言われて動じない精神を青峰くんにも見ならつて欲しいものですね。


『お粥かな。でも鯖は入れないでっ』


「またハル、鯖粥作ったのか……あいつは」


鯖粥
聞いたことのない単語に首をかしげていると山崎さんが補足してくれた。


「そのまんま。鯖が入ったお粥だ。食いづらいし何より鯖臭い」


それを病人に食べさせるんですか、あの人は。鬼ですか、鬼。流石に作ってもらっておいて文句は言えませんがそこは言いたいです。


「鯖好きも度が過ぎるとすごいだろ?」


「そうですね……でも、病気中に鯖はちょっと」


「ああ。だがあいつは栄養があるから、と言って入れる」


「棗さんも大変なお兄さんを持ったものですね」


「同感だ」


うん、話しやすい。この人はどこの誰よりもまともな人だ。現実を見ていて話しやすい。

橘さんはほわほわしていて微妙だったりする。まぁ、普通の人なんだけど……山崎さんのが話しやすいですね。


「腹減ってんのか?」


『ううん、でも、凛ちゃんが作ったのは美味しいから』


「っわかった。作ってくるから静かにしてろ」


『はーい!』


そう言って松岡さんは部屋から出る。僕らも彼に続いて出ていくことにした。


『そーちゃぁーん!行っちゃうの?にひひひ、あはははは!』


「相当熱高いな、こいつ。おい、あの松岡が言ってたろ。寝てろよ」


『やぁーだー、大ちゃんったら!そんなの大人しく寝てるはずないでしょっあはははは!』


バシバシと布団から伸ばした手で青峰くんを叩く彼女。相当なものなのかあの青峰くんが顔を歪めている。痛いらしい。できれば僕もゴメンです。


「棗さん……寝なくては今週の実習行けなくてもいいんですか?」


『テッちゃぁぁん、それはやだよ!』


「なら大人しく寝ててください」


「テツくん、実習なんかあった?」


「あるわけ無いでしょう。ここは、もう寝てもらわなくてはダメですから」


勿論、嘘です。まだ入学したてなのに実習なんかあるわけ無いでしょう。
熱だったので、わからないかなと思ったので。


『そーちゃぁーん!遊んで遊ブッ』


「いいか、棗。寝ろ」


ヒッ、と小さな悲鳴をあげたあと布団の中に引っ込んだ彼女。

山崎さんは黒いようです。


「わかった?」


『はい……ごめんなさい』


「ん」


棗さんの子供の頃はきっとこんな感じだったんでしょうね。みんなちゃん付で呼んでいてお転婆。それに皆さんに随分可愛がられていたんでしょう。

主に松岡さんと遙さん。


「あいつ、熱出したらあんなもんか?」


「まぁな。で、凛だけじゃ抑えきれなくなって俺が呼ばれるんだが……今回はいらなかったな」


「そうか?俺は今のあんたの行動見てて必要だと思ったけどな」


「そうか?」


「だって松岡にも俺にもテツにもできなかったことをあんたはさり気なーくやったからな。いなきゃ今頃さつきと話してたろうよ」


青峰くんがいうことは最もだと思います。
さつきさんは松岡さんに着いていきましたが台所から聞こえる悲鳴でさつきさんが何してるかくらい目を瞑ってもわかります。


『ねぇ、大ちゃん』


「何だ?」


『手、貸して』


「手?」


『うん』


恐る恐る出した手を棗さんががっちり笑顔で捕まえてさっきのように握り込んでしまった。


「何でまたするんだよ!」


『だから落ち着くんだってば……お父さんみたい』


あ、固まった。
まぁ、そうなりますよね。思いを寄せてる人にお父さんと言われれば誰だって一瞬固まる。


『お兄ちゃん、まだ?』


「あ?七瀬兄?まだだよ」


『……帰ってこなかったらどうしよう』


「大丈夫だ。帰ってくる」


『ホント?あの日みたいに帰ってこないなんてないよね?そーちゃん』


「ああ。だから、安心しろ。もうすぐ帰ってくるから」


不安そうな、泣きそうな目で山崎さんと青峰くんを見る。
にこりと笑ってから青峰くんの頬に手を伸ばすと彼女は言った。


「お兄ちゃんの目みたい。綺麗だね……」


無邪気な笑顔ではなくいつもの、遙さんに似ている笑みを浮かべてそのまま寝付いてしまった。多方、疲れたのだろう。
そっとしておき、僕とさつきさん、そして青峰くんは帰ることになった。

棗の手を青峰くんから外すのに苦労したけれど。


「じゃあ、すみません。お先です」


「ああ。ありがとう、済まなかったな」


「いいえ!じゃあ、宗介先輩、凛先輩、失礼します」


さて、さつきさんはいつの間にそんなに二人と仲良くなってんでしょうかね。
まったく、彼女のコミュニケーション能力の高さを少し僕に分けて欲しいくらいです。


「で、結局大ちゃんは棗ちゃんに何したの?」


彼の話を聞いた瞬間僕のイグナイトとさつきさんのハリセンが炸裂した。


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