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まだ未だにグチグチ言っている二人。相変わらず仲良くしない彼らに私は苛立ちを覚える。

せっかく楽しいところに来ているのにどうして仲良くできないのか不思議でたまらない。
みんな行くのに二人はそれを知らずに睨み合っている。


『もう、二人ともいい加減にして!』


「……んだよ」


『……楽しもう?せっかく楽しいところに来てるんだから。ほら、凛!行くよ』


無理矢理にでも行かせようとして凛の手を握って引っ張った。


「ちょっ……」


「チッ」


『何よ、不満?』


右手に凛、左手に大輝。
でっかい弟を持った気分だ。案外良いかもしれない。手のかかるのはちょっと嫌だけどね。


「離せって、これは流石に恥ずいから」


『うるさい。元はといえば凛と大輝が悪いんでしょう?違う?』


「「イエ、ソンナコトナイデス」」


『よろしい』


目一杯楽しまなきゃ損だ。

私の自論だ。


『ハルー!赤司くーん!待って』


私は陸より水辺が好き。気持ちいいから。スッキリもする。
だから


『ふぎゃっ』


「うお!?」


「っあ"あ"!?」


陸で走るのは苦手だったりする。

三人で仲良くこけました。


「棗……ふざけんなよ?てめぇ……」


『そんなこと言わないで。大輝が踏ん張りなさいよね』


「ああん?松岡の分まで支えられるかよ!」


「何だよ。俺が重いみたいに言うなよ」


「実際重いだろうがよ」


「てか、元はといえば棗が走るから悪い」


間に挟まれて頭上で話されていたと思ったらいきなり降るなんて酷いと思う。

しかも私が悪いみたいに言う。


『不得意なことは誰にだってあるよ』


「棗ちゃーん!平気だった?」


『さつきちゃん……!』


癒しだ。癒しが来てくれた。
でも、凛がさつきちゃんの顔を見て顔を青くしたのは何故だろう。
大輝も後ずさっていく。二人と手を繋いでいるせいで私まで、だ。


『え、ちょ』


「さつきー、お前何持ってやがる」


「あ、これ?みんなに作ってきたフィナンシェ〜」



ニッコリと持っていたタッパーを開けると見た目は普通、中身はポイズンなフィナンシェがそこにあった。
本当に美味しそうなのに何で不味いのか気になる。

よし、腹を括ろう。


『お、美味しそうだね。もらっていい?』


解明してみよう、死んでも誰かが骨を拾ってくれるでしょ……。


「棗、お前の骨は俺が拾ってやる」


「い、いくな!やめておけ!」


大輝が親指を立てて敬礼してて凛は冷や汗だろうか。流していて焦っている。

よし、意を決して!いざ!!


『…………ん?』


「ど、どうかな?」


『さつ、きちゃん』


「んー?なぁに?」


『お菓子には、栄養ドリンクとか、薬とか、い、入れなくて……いいんだ、よ?』


うん、苦い。

あ、ここすっぱ!

うっ、げほっけほっ、ここは……塩辛い……。

あれ、ここ酒臭い

ん?なにこれ?


あ、ダメだ。死ぬ。


「え、あ、きゃぁー!棗ちゃん!?」


「さつき、んなもん入れてたのか!?」


「うん、だって……ってそれよりも、棗ちゃん、ダメだった?吐く?」


「はぁ!?棗ちょっと我慢しろ!おい松岡!こっから近いトイレは?」


「あ、あっちだ!」


『ぅ……さつ、ちゃ……ん』


「ご、ごめんねぇ!!」


ダメだ、今どういう状態で自分がどうして浮いているのかわかんない。

とりあえず安定している場所にいることは確かなんだ。膝裏があったかい。


ああ、大きな壁。……気持ち悪いのは寝るに限る。寝ようかな?


ーーー


「おい、トイ……あ?」


『……ス-ス-……』


「ちっ、寝たのかよ……ったく、走って損した」


いわゆるお姫さまだっこをされた棗はとても目立っていただろう。
大きな壁、つまり青峰の胸板に頭を預け真っ青な顔だが寝ていた。


「……帰るか」


トイレまで走ったというのに意味もなく面倒くさそうに舌打ちをすると息を整えつつ歩き出した。


「……ん?」


「あれ?棗さん寝てますね」


「テツ。なんか走ってたら寝てた」


心配そうに眉間にシワを刻みながらきた遙。そのとなりには棗をこうした原因を作った本人と、黒子がいた。


「あの、本当にごめんなさい……」


「いや、大丈夫だ。真琴、行くぞ。大輝、運んでもらっても構わないか?」


「ああ。別に」


「フッ、ありがとう」


はにかむように笑ったその顔はやはり兄弟だと再認識させられる笑顔だった。棗も兄の遙と同じような笑い方をするからだ。


「おい、俺のが家近いから運ぶぞ?」


「いや、起こしたくないんだ。ありがとう、凛」


「そうか……ならいいけど」


「今度は渚とか、怜とか誘って来ようか」


「ああ」


遙にあっさりと断られてしまった時の凛の顔を見ていたのは紛れもなく一人だけだ。


青峰大輝、彼のただ一人。


悔しそうに、こちらを睨んできたその表情は獲物を狩ろうとする鮫のようだった。


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