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私の中で一番近い存在って誰?今そう聞かれても昔聞かれていても答えるのは一人だけだ。
兄の七瀬遙。彼一人。

なら一番遠くにいたのは誰?今そう聞かれても昔聞かれていてもこれも、答えるのは一人だけ。
兄の七瀬遙。兄は遠くて近い存在だった。

それならば、違う人は?
松岡凛彼だけ。真琴は違う。真琴はハルちゃんハルちゃん、兄のハルばかりだったから。
だから本当に一番私に近くて似ていた存在は凛だった。
風邪をひいた時も、私が転んだ時もいじめられていた時も、初めに気づいたのはいつも凛。一緒にいたのは本当に短い期間だった。それでも、彼は私のことを一番に見てくれた。


そんな彼に対して小さい頃だったが、好きという感情を持っていた。それは兄として、ではなく異性として、だった。
勿論私は小学五年生で凛は六年生。そこまで接点はなかった。だけれど、クラブが一緒で彼が褒めてくれて、たまにハルも褒めてくれたけど、凛が一番に褒めてくれた。それが嬉しくて嬉しくて頑張った。


でも、私には水泳の才能は無かった。人並み一つ上だったとしてもそれだけ。才能が開花することはなかった。
高校に入っても私に掛かる声は凛みたいな励まし、褒めてくれる声なんかじゃない。




―七瀬!もっとお前なら上を目指せる

―七瀬、推薦きたんだってな!

―何で一年なのにリレーに出れるのよ!

―七瀬、お前向いてないよ競泳




煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!!!!!!!!
お前たちに何がわかる!私の努力の何がわかるの。
いつしか凛の影を忘れて、私は誰かがある人のように褒めてくれることを期待していたんだ。
ある人を忘れていた。
高校三年生、ハルたちがこっちに来て、久しぶりに凛の顔を見て、もうあの頃のような感情はなかった。ハルのような、兄のような感情しかなかった。
隣にいて落ち着くという感覚もなくなっていた。


「……めん」


「は?今何て?」


「ごめんね、凛」


「…………」


「ごめんッ……ごめんね」


「……何言ってるんだよ」


「凛はもうお兄ちゃんなんだよ」


「!」


残酷かもしれない。いや、私は最低で残酷だ。わかっている。けれど言わなきゃ、前に進んでくれないから。


「凛は」


「言うな」


「私の大切な」


「言わないでくれ!」


「大切な友人なの」


だから、ごめんなさい。前もっていっぱい謝った。
許してなんて言わないよ、だって凛は


「こんな私の事を八年間も好きでいてくれてありがとう……」


きっと小学校の時から私のことを好いてくれていた。
ごめんね、その心の涙を拭うのは私じゃないの。凛が自分自身で拭わなきゃいけない。私がハンカチを差出しちゃいけないんだよ。


「ごめん、帰るわ。元気そうでよかった。じゃあ……」


男の子って凄いな。何で笑ってられるんだろうか。女の子の前だけじゃない、公共の場所で中々泣かない。


「り、」


手を伸ばした先には誰もいない。









「……好きだったよ」









もしあなたがオーストラリアに行く前に好きだと言っていてくれたら、この関係は違ったかもしれないね。


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