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車が去って行ったあとすぐ、張り込みの意味を知る。
何と、本当に車の音を聞いていたのか、さった瞬間にそいつさ動き出したのだ。
何か包まれたものを運び込む暗闇で顔は見えなかったが、男だった。隣で黄瀬が小さく息を漏らす。


「あいつ……」


「あいつであってんのか?」


「あってるんスけど……もしかして、あの毛布の中身、ナツっちっスかね……」


苦い顔をしながら黄瀬はそう言った。思ったことがあればすぐに行動するのが青峰である。
黄瀬を隣の家にやり、無理やり自転車を借りて来いというのだ。


「モデルやってんだから、サインでもやっといたら何とかなるだろうが。早くしろっ」


モデルというステータスを活用させ、自転車を借りてこさせた青峰。跨ると発進した車の後ろをゆっくりとついて行った。黒い服に、黒い自転車。そして彼自身が黒いからか、うまく暗闇に溶け込み、ちょっとやそっとじゃバレなさそうだ。


「黄瀬、みんなに連絡しとけ。警察にも頼む」


尾行開始だ。


****


「……涼太からだな」


「動いたのか?」

「かもしれないね。……ああ、涼太かい?」


黄瀬は赤司に連絡をとり、今あった事柄すべてを話す。


「……はぁ、警察に任せたらいいものを。ありがとう、涼太は引き続きそこにいてくれ」


〈え?〉


「そこに警察が到着するはずだ。今の出来事をちゃんと言え。いいな」


そう一方的に言ってから電話を切った赤司は先ほど帰ってきた遙たちを見て言った。


「なんであんな単細胞を連れていったんだ……」


溜息をついた赤司をみて遙は首をかしげた。
その時ちょうど緑間と黒子が帰ってきた。後ろには警察が立っている。
今の状況の説明と、自転車でおっているバカがいると赤司は説明した。
警察は頭を抱え、急いで署の方へ連絡していた。一般市民が、誘拐犯を自転車で追っているというではないか。驚くに決まっているだろう。


「彼とは連絡を取れますか?」


「……多分無理でしょう。必死こいてあのバカなら自転車をこいでいる筈です」


「そうですか……わかりました。一応、七瀬さんを連れていった男の家に向かわせていただきます。それと、もしわかれば車のナンバーや色等教えて下さい」


思い出せる限りのものを伝え、警察に説明したあと、彼は去って行き部屋には青峰、黄瀬を抜いたメンバーが揃っていた。


****


「……どこまで行きやがる、この車」


だいぶ息が上がってきた頃、そう青峰は呟いていた。自分をまこうとしているのかと思ったが、それにしては普通のスピードだった。高速道路などに乗られなかったのは幸いと言ってもいいだろう。


右に曲がった車についていくと着いたのはアパートだった。小さなアパート。


「……は?んだよ、ここ」


「ずっと……こ、で――か。棗」


聞き取るには遠すぎたが、ひとつだけ聞こえた物があった。それは棗の名前だ。
毛布に包まれたソレに話しかけるのだ、やはりその中には棗がいるのだろう。


「……っち、誰だよって赤司?」


ズボンのポケットに入っている携帯が震えた。マナーモードにしていたことに、こんなに感謝したことはなかっただろう。


「……赤司か?」


〈大輝、大分息が切れているね。そんなに辛い道だったのか?〉


「疑問に思うならお前もやってみたらどうだ」


〈まぁ、それはさておき。……棗は〉


今の状況を青峰なりに纏め、赤司に話すと言われたのは一つだけ。


〈警察が到着するまでそこで待っていろ〉


ゴーサインではなく、待て、というもの。そんなものを予想していなかった青峰は眉間にシワをよけ怪訝そうな顔をした。


「んでっ!」


〈アパートの中に入っていったんだろう?その中で生活していたら武器になるものは沢山ある。包丁鋏などね。刺されたらひとたまりもないよ〉


それに、そう付け加えられる前に電話の電源を切った。とりあえず警察が来るのを待つしかなかった。
どこの誰の家か知らないが、凭れさせてもらう。背中を伝わらせ、地面に座り込んだ青峰は自分の頭を乱暴にかいた。


「俺は……何しにここにいるんだよ」


誰も答えてくれるものはいない。


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