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「おい、」


「お前、好きなのか?アイツが」


「は?だったら?」


「……いや、別に」


車に乗る前にそんな会話をしていた凛と青峰。
後部座席の真ん中に座り、運転席と助手席の間から身を乗り出す。そんな彼を見ずに凛は真っ直ぐ前を見ながら運転していた。


「真琴」


〈ハル?俺らは周りに聞いてみるね。とは言っても俺ここから動かないけど……〉


「構わない。頼む」


〈ん、任せて。警察にはもう通報しておいたし、念のため緑間くんと黒子くんに行ってもらったよ〉


「わかった」


しっかりしてそうな二人で安心した遙は一度携帯を切ると、窓を叩いた。大きな音に驚いて体を揺らす凛と黄瀬。


「……ムカつくのもわかるけど、モノに当んな」


「けどっ!」


「言いたいことはわかってる。だから、今は言うな」


自分の不注意?そんなことが頭をよぎったが、どうだってよかった。


ただ思うのは自分の大切な妹に何かあったらどうしようか。


それだけだった。
しかし、それが現実に起こったら?自分はどうかしてしまうかもしれない。
もし、もし、死体で帰ってきたら、見つかったら?6時間は経っているのだ。そういう考えがよぎってしまうのも仕方のないことだろう。


「っ……」


「ハル、次は?」


「……ああ、右だ」


「いなかったらどうする?」


「一度家に帰る」


その言葉に渋る3人だったが、いなけれは何も言えないのだ。彼女の話を聞くことも、どこで別れたのかも、わからないのだ。
結局はうなづくしかなかった。
カーナビと遙の案内も終わり、着いたのは普通の二階建ての家だった。


「……じゃ、行くか」


「待て、黄瀬、青峰」


「ん、何スか?」「ぁんだよ?」


「あまり大きな声を出すな。普通に接しろ。居留守を使われる場合もある」


凛の目線の先を追うとそこには黒い車が止まっているのが確認された。これで、この家にいる確率は上がる。しかし肝心の電気がついていないのだ。


「……車の音に気づいて消したのかもしれない」


遙のその言葉に頷き、青峰はインターホンを押したのだった。


****


「……っう」


目を覚ますとそこは真っ暗だった。背中は別に冷たくないし、コンクリートの床に寝かされているということもないだろう。
寝ていた場所を見渡す限り、どこかの一室だった。家の中のようだ。


「んん、んん?」


此処、どこ。そう呟いたはずなのに、声はくぐもってちゃんと聞こえなかった。
さて、探索しようにも両手足縛られ口にはガムテープを貼られている。これでは助けを呼ぶおろか、動くことさえもできない。真っ暗な部屋の中。カーテンの隙間から覗いているのは月だった。


「うん!?」


嘘、だってあの人とあったときは昼間だったのに……てか、あの教師は何してんのよ。
あの先生が犯人だとは思ってなかったし。最悪、まんまとハメられたって訳だ。
ああ、馬鹿みたいじゃないかこれじゃあ。ハルには心配するなと言ってしまったし……あんなにしつこくストーキングされていたのだ。何かされるのだろうか。


「すいませーん」


インターホンの音と、聞いたことのある高い声。紛れもなく黄瀬だった。そのあとに聞こえた野太くて低い声。


「おい、いねぇのかよ」


「んんー!ん、んんんん!」


「ち、居留守かよ……」


大輝っ、そう呼んでいるのに気づいてくれない。暴れてみようと思ったとき扉が開き、中に人が入ってきた。紛れもない、あの教師の皮をかぶった男だ。


「ようやく起きたんだね。あの薬、強すぎたかなぁ」


「っ」


猫撫で声でのその言葉にやはりお前か、と納得する。
優しくゆっくりガムテープが外された瞬間叫んだ。


はずだった。


「むぐっ、うっ、……」


また私は同じような手口で眠らされるのか。


―同刻


「ダメだ、出てこねぇや」


「……強行突破するか」


「え……ハル?」


「お、おい」


「せ、先輩〜さっきと言ってること違います」


「……無理か。とりあえず警察を呼ぶ。中にいるはずだ。ここに誰か残って、警察に事情を説明する」


遙はゆっくりと自分の後ろにいた青峰を見た。
まるで、何のために連れてきたと思っているんだとでも言いたそうに見る。それにたじろぐ青峰と黄瀬。何かと誰だって思うだろう。


「な、何スか」


「青峰、黄瀬、頼んだぞ」


「は?」


「そこらへんに隠れておけ。いいな」


何で自分ではないのかと、遙に凛が聞くと当たり前のように、運転と言われてしまったのだった。


かくして青峰と黄瀬、張り込みというものを人生で初めてすることとなった。


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