1その日、知らない人からの電話に出るかでないか渋っていたとき、そう言えば高校の時の担任、石川先生に教えたのだったと思い出す。
恐る恐る静かに出ると明るい、先生の声が電話越しに耳に入った。
私はおばあちゃんじゃないから、そんなに大きな声で話してくれなくても聞こえるのに。
正直うるさいんだけど。
「先生?もう少し小さな声で話せませんか?」
唯でさえあまり乗り気じゃないのに、余計に電話をブチ切りたくなるじゃないか。
〈あ、すまないね。それで、今車で君の方に向かうからこないだのコンビニ、家から近いか?〉
「まぁまぁ近いです」
〈じゃあ、悪いけれど、そっちに向かってもらっても構わないかな?家がわからなくて〉
「……わかりました」
電話を切ると風呂に入っているハルの元へと向かう。案の定水着着用で風呂に入っていた兄はジト目でこちらを見てくる。
無言だが、入ってくるなとでも言いたいのだろう。
「ハル、私でかけるから」
「……着いてく」
「平気」
「でも」
「人と一緒だから平気。ただ帰りはいつになるかわからない。遅くならないようにはするから」
風呂から上がろうとするハルを風呂に押し戻し、笑顔を作る。仮にも教師だし、何かをしてくることはないだろう。
「高校の時の担任とお茶してくるだけだから、心配しないで?」
黄瀬くんが誰と行くかとか、言えって言ってたから言っておいたけれど、これでいいのかな。
お茶するだけだし、遅くなるということはないはずだ。私自身、さっさと帰ってきたいのだから適当に話を切り上げてかえってこようとおもっている。
だって苦手だし、あの人のこと。
人はいいんだけどね。
「じゃあ、行ってくる」
マンションから出てこの間のコンビニまで歩いていく。結構な大通りだし、昼間なので人も多い。あの時はちょうど人通りの少ない時間帯だったからね、黄瀬くんといた時は。
誰かといなくても平気だ。
「さてと、先生の車は……」
電話で確か、黒い車だと言っていた。それだけじゃわかんねぇよ、とか思いつつわかりましたとか適当に言った気がする。それに、車のブランド名とかそこらへん言われてもわからないし、聞いたところで意味ないんだけれども。
「おーい、七瀬」
「ああ、先生」
この車か。黒い車だな、確かに。
「またせてすみません」
「いや、気にしないでくれ。こっちもさっき来たばかりだ」
なんかこの人、何人も彼女いそう。よくこんなセリフを私は聞くよ、漫画とかではなく現実で。いや、待ち合わせしてた男女がね。
リア充め、とか思っちゃうのが虚しかったりする。
「じゃあ、失礼します」
「どうぞー」
助手席のドアを開けられたので仕方なしに乗り込む。本当は後部座席に行こうと思ってたのに。
ゆるゆると発信し出した車。カーナビが指示を出して喋っている。
「何処の店に?」
「ああ、七瀬ってケーキとか好きか?」
「まぁ、程々に」
「そうか、よかった!実は近くの店にケーキバイキングができるところがあってな。そこに行こうと思ってたんだ」
赤信号になったからか、後部座席に置いてあるかばんの中からチラシらしきものを取り出して手渡してきた。
もうなんかデートみたいになってるんですけど。嫌なんですけど。
早く帰りたい。
「へー、こんなっんぐっ!!?」
――――――手が込んでるだろう?
そう聞こえた気がした
prev|
next