■「かっこ、わりぃ」
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ポロリとこぼれ落ちたのは、そっか、それだけだった。
「#name2#?どうしたの?帰んないの?」
「あ、ちょっと野暮用」
「ふーん、私たち先帰るね?」
「うん、またね」
#name1#は友人二人に手を振って、前を向いて歩き出す。特にそこに絶対いいる、という確信はなかった。ただ、本当に普通にいるんじゃないかと思っただけである。
「雨、最悪」
そう言って鞄に入れていた折りたたみを引っ張りだし傘をさす。
相手校は、誠凛高校という新設校。IH、秀徳予選落ち。その言葉はどれだけ重たいものか#name1#には全くわからなかった。ただ、負けてしまったのだという事実だけは明確にわかっていた。
「……」
バッシュと体育館の床が擦れて成す音。ボールをつく音。それと、悲しく響く雨の音。その全てが胸に響いて苦しく感じるものである。
「はぁッ……はぁッ」
「今日は部活なしなんじゃなかったの?」
「はぁッ……っせぇよ」
「体壊しますよ」
ヒールも何もついていないパンプスに手をかけて脱ぎ捨てる。ストッキングを履いているため体育館の床を滑らないように気をつける。
「んで、ドMメガネがいるんだよ」
「んー?何となく、かな」
いくつも落ちているうちのボールを手に取り宮地の方を振り返って笑う。手から滑り落ちたボールは床をはねて#name1#の手に戻っていく。
「バスケってすごいよね」
「……」
「かっこいい」
「でも、俺達は負けた」
「うん。それでもかっこよかった」
「お前に何がわかる!?新設校に負けたッッ……!!!」
床に叩きつけられるように投げられたボールはどこに飛んでいったのかわからない。ただ、#name1#はそんなものも見向きもせずに宮地だけを見て穏やかに微笑んでいた。
「きっと、悔しさを胸に成長するんでしょう?私的には一度負けてももう一度勝てばもっともっとかっこいいと思う」
体育館内を見渡してさきほど宮地が床にぶつけたボールを取りに行った。遠くにあるボールを取りに少しだけ早足で歩く。何度もストッキングのせいで滑りながら。
宮地はその間、何も話さなかった。言葉は、漏らさなかった。
「……ッ……ぅ」
「私は、ああやってみんなでワーってやるスポーツはよくわからないなぁ……でも、自分が外したときの罪悪感はわかる。まぁ、私は外さないけどねー」
いつもなら言ってろ、位は宮地の口から吐き出されらはモノだが今は何も吐かない。毒くらい吐いてもらわないと調子が狂うのだ。ツッコミが来ないとはなんとも悲しいものか。
「でもね、外して泣いてる子ほど私は何でだろう……凄くかっこよく思う。本当に何でかはわからないけど綺麗だって思ったりカッコイイなって思ったり」
的に矢が刺さらずみんなに謝りながらボロボロと涙を流す。顔はくしゃくしゃで不細工になりながらなく後輩や友人達がすごく素敵で格好よかったのだ。#name1#が主に的を外す、なんてことはなく、中心に刺さらなくても少なくとも的のどこかしらには刺さった。泣く事は無かったから、そう思っただけかもしれない。
「清志くん、泣いてる時くらい胸貸すよ」
「ッッ……く、そ……が」
「え……」
腕をにこやかな笑みを浮かべながら広げた#name1#。決して自分の胸に宮地が来るなんて#name1#でさえも思ってなかっただろう。しかし、彼は倒れるようにして#name1#にもたれたのだ。
#name1#はその時こう思った。
今死んでもいい……!!!!
なんと不謹慎なことだろうか。ただ、その宮地の弱ってる姿にキュンして、それでいて辛かった。
「かっこ、わりぃ」
「……そんなことないよ。悔しいって涙流せる人ほど、それだけそれに夢中で熱中してて、かっこいいよ」
雨で外はうるさかった。
土砂降りの雨はまるで宮地の心の中を表しているようで#name1#は顔を顰める。どこの、小説の中の話だと思ってしまった。主人公の心境がどうだとか、今は落ち込んでいるから、と曇った空、何かをかけたりする、それと同じように感じて#name2#は嫌だったのだ。