ゲーマー番外編 | ナノ
▼ 恋人
行ってらっしゃいと送り出してもう結構な時間が経つ。仕事上一緒にご飯を食べる、何てことはとても少ない。だから、こういうとこも仕方ないと思うが流石にここまで遅いと不安になる。時計の針は既に10を過ぎており、送り出したのが4時。ということで、彼は6時間元チームメイトと飲んでいるわけだが。はっきり言って幸くんは酒に強くない。人並みだが、それほど飲めるとは思わない。

「遅すぎるだろう」

と携帯を片手にした瞬間タイミングがいいのか、森山くんからの電話。それを取ると少しだけ呂律の回ってない声が聞こえた。

『あー、敷島?』
「ああ。そうだが」
『あのさー、笠松がべろんべろんになったんだ』
「えぇ?彼は酔うと面倒なんだが……」
『迎に来てやってくれないか』

ここで、嫌だと言ってしまえば幸くんがどうなるかわかったものじゃない。直ぐに車のキーを引っ掴んで鞄を肩にかける。

「場所は?」
『おー、場所は―――』

案外近いそこに少しだけ安堵しながらエンジンをかけて車を発進させる。車をいくつか抜かしながら目的地へ向かった。
数分走れば居酒屋の前に立っている森山くんと小堀くん、それにべろんべろんになっているであろう幸くんが肩を貸され、そこにいた。

「悪いな」
「いや。小堀くんは強いのか?」
「いや、弱いからあまり呑まなかったんだ」
「賢明な判断だな」
「おー、杏奈じゃねぇか……」
「ほら、幸くん帰るぞ」
「名前呼びかよ」
「森山くん、突っ込まない。ほら、肩貸すから」
「嫌だ」

面倒くさい。実に面倒くさい。一度家で飲んだ時は絡み酒になり、絡んでくる絡んでくる。しかも、どんどん変な方向へと走っていくのだから、困ったものだ。しかし、今回は店の前でしかも車を停めてしまっている。

「迷惑だから、帰るぞ」
「嫌だ」
「じゃあ、家に帰って飲み直しても構わないから 」
「……お前も飲むのか?」
「あー、飲む飲む。ほら、乗ってくれ」
「なら帰るわ……」

どうせ帰ったら寝るだろうと踏んでの返事である。しかし、かなり酒臭い。顔も赤いし、触れたところ体温も高い。飲みすぎるなと行く前に言っておいたのに。森山くんが強いからといって、張り合って飲んだのか知らないが。

「ほら、行くぞ。すまない、迷惑かけたな……」
「いや、俺らも笠松があんなふうになるなんて思ってなくてさ」
「俺が飲ませちゃって……悪い」
「小堀くんは悪くないよ。全部森山くんが悪い。君は何度か幸くんと飲みに行って限度を知っているはずだろう」
「だから、悪かったよ」
「君たちに迷惑をかけるから私も行こうとしたんだが。森山くんがいいと言うから任せたのに」

頭を抱えてため息をつく。

「まぁ、後で戦利品送るからそれ見て。本当に悪かった」

右手で持っている携帯を振った彼は目の前で手を合わせて最後まで見送ってくれた。
隣をちらりと見れば座席を倒して窓の外を見ている幸くんがいた。随分眠たげだ。あれだけ飲んでいたらそれもそうか。そう納得して、青になった信号を確認して走り出す。

「幸くん、もう着くから座席を直してはくれないか」
「……おう」
「私には君を担いでいくほどの力はないからな。自分の足で部屋まで歩いてくれよ」
「……わかってるよ」
「顔が赤い。戻ったら薬と水出すからソファにでも寝てろ」

曖昧な返事ばかり帰ってきて不安だ。もう、小堀くんに任せなくては幸くんが毎回潰れて帰ってくることになる。森山くんに任せた私が間違ってた。小堀くんが気づいた時にはもう既にかなり酔っていたらしい。全く、大人にもなって……と叱りたいところだったが楽しかったのだろう。咎めることなんてできる筈がない。

「ほら、マンションついたから……ってうわっ!!」
「なぁ……」
「は、離っ……」
「俺、こんな幸せで平気なのか不安なんだ」

結局駐車場についても寝たままの座席は直っておらず、直そうと手を伸ばしたところを掴まれ抱きしめられたのだが、この体制が辛い。椅子に座ったままの体制のくせして、幸くんに引っ張られて抱き締められているんだぞ。足腰に来るんだが。
それに、心臓うるさい。

「もうお前、どっか行ったりしねぇよな?」
「……ああ、行かないよ。飛ばされたりしない限りな」
「飛ばされんな」
「それは幸くんもだろう?」
「……おー」

しかし、本当に彼の体は熱い。どんだけ飲んだんだ、本当に。

「明日も仕事だろう?早く帰って寝ろ」
「飲みなおすんだよ、俺は……」
「馬鹿。風呂に入って酒抜いて、寝るんだ。警官が二日酔いなんて笑われ物だぞ」

座席を直し、彼に肩を貸す。足取りは定まらずフラフラだがそれでもどうにか部屋にたどりつきソファに座らせ薬と水を差し出してそのまま風呂に連行。風呂の中で寝ないように風呂の前で待機。案の定、途中で何の音もしなくなったために扉を開けるとぐっすり寝ている彼がそこにいて。しばき起こし、そのままベッドへ放り投げた。

「ふぅ。今日一番のいい仕事をした気がするぞ」

いつもの彼なら考えられないような、そこらに服を脱ぎ散らかし、空になった薬のカスは捨てていない。コップは飲みかけで机の上に乗っている。それらを片付けた時にはもう既に日にちが変わっていた。

「あーぁ。明日辛いな、こりゃぁ……」

しみじみそう呟いて、珈琲片手に森山くんから来ている添付ファイルを開ける。音声のみのそれは幸くんと森山くん、黄瀬くん以外のチームメイトたちの声、それにお店の店員さんの声が入っていた。

『で〜?敷島とはどうなんだよ』
『別に、普通』
『ふーん?健全なお付き合いなのか?』
『……何が言いてぇんだよ』
『いやもうヤ』
『森山、黙れ。熱燗ぶっかけんぞ』
『や、怖い怖い怖い!火傷するから!』
『あ、生!ジョッキ大で!』
『早川、お前そんなに飲んで平気なのか?』
『平気ですよ!お(れ)結構飲め(る)んですよ!』

最初の方はなんの話をしているんだ、森山くんはと青筋が浮かんだ気がしたが、そんなこともなく。相変わらず彼らは昔のようなテンションで話すなぁと思う。まず森山くんがこんなものをとっている時点で子供っぽい。
結構な時間があり、雑談タイムに入ったあと結構あっさり幸くんが落ちた。

『ていうか、あいつはなーんも言ってこねぇからさ』
『例えば?』
『別に、例えなんかねぇよ。ただ、欲がねぇっていうか』
『笠松は欲があるのか』
『そこ聞くなよ、森山……』
『いや、小堀。お前も気になるだろう?』

唯一、あまり飲んでいない小堀くんは意識がハッキリしているらしくちゃんと話しているがもう幸くんが危うすぎる。

『欲なんか、誰にだってあるだろ。どっかに行きたいだとか、何かしたいだとか』
『ふんふん』
『あいつ、何にも言わねぇんだよなぁ』
『じゃあ、笠松は何を敷島に言って欲しいんだ?』
『何でもいいよ。いつも俺の意見聞いてねぇで自分の意見も言えって思う』

ヒック、なんてしゃっくりをしながら酒を呑む音が聞こえる。そろそろ小堀くん、止めてやってくれ。森山くんも変な話聞いてないで、止まってくれ。

『嫁さんにとる気は?』

水、飲んでなくてよかった。森山くん、いい加減止まってくれないか。水を飲んでいたら絶対携帯に吹き出したんだが。

『は、はぁぁぁああ!!!??』
『笠松、うるさいぞ。それに森山、変なこと聞くなよ……』
『よ、よよ、嫁……』

ショートして固まっているだろう彼の顔を想像して一人で笑ってしまった。しかし、結婚なんてまだ何も考えていないな。幸くんは考えているんだろうか。

『俺は、まだ……この関係でいてぇかもな』
『ん?』
『結婚とか、まだ考えなくてもいいだろ。これで、幸せだし』
『!……そうか。ほら、森山。かなり笠松酔ってるから。もう録音やめて敷島に連絡したらどうだ』
『そうだな。敷島への土産用に撮ったやつだし、これ。ということで、ここで終了するぞー。今度は黄瀬もちゃんと誘って、敷島も一緒に飲もうぜ。お前からも話聞きたいからさ』
『騒がしくて済まない。とりあえず、笠松を任せてしまうことになるけど、悪い』

今回、私が行こうとしてダメだったのは彼らが元々こういうことを計画していたのかもしれない。こういうことがあるから、幸せだと思える。
高校三年、幸くんと過ごしたのはすごく短くかった。本当に一緒にいたのなんて数ヶ月で、楽しかったのなんてあっと言う間だった。だけど、こうやって一緒にいれるのは、私にとってすごく幸せだ。
森山くんと小堀くんにメールを一通。今日はありがとう、おやすみなさい。それだけだが、言いたいことは今度の席にとっておこうと思う。

「幸くーん」

すぅすぅと寝ている彼の隣に腰掛け大きい手を握った。

「私もこのままでいいと思うよ。まだ、恋人として一緒にいたいからな」

寝ているはずの君の手が握り返してくれた気がした。

「明日も頑張れー」

額に唇を落とし、シャワーを浴びようと立ち上がった。

「バカ野郎……」

そんな言葉を呟き赤面している笠松のことなど、敷島は知らないだろう。 prev / next

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