ゲーマー番外編 | ナノ
▼ 幸せに
「だから、いいってば」
「お前が良くても俺が良くねぇんだよ」
「いや、でも……」

同居するに当たって、笠松くんはどうしても私の両親に挨拶がしたいという。そんなものいらないと言っているのに、どちらも頑固だからか譲らない。確かに世間体的に当たり前にすることだろう。けれどそんなことしなくともいいと思ってしまう。あまり、貴史さん(父)に会いたくないというかなんというか。

「いいから。いつ空いてるか聞けるか?」
「……わかった」

結局折れてしまったのは私だ。きっとこれからも、私が先に折れてしまう気がする。

親に聞いたところいつでも空いているということだったので、早めに行きたいという笠松くんの意見によって今週の日曜日ということになった。ちなみに二日後。

「何でそんなに嫌なんだ?」
「別に、嫌というわけじゃないさ」
「そうか?」
「ただ、その……」
「ただ?」
「もう、いい。顔洗ってくる」

何だか気恥ずかしい。笠松くんが家に来て、両親となにか話しているのを想像すると顔が熱くなる。何を想像しているんだか。断っても絶対に行くと言ってくれたことが、ただただ純粋に嬉しかった。貴史さんには、会いたくないけれど。

「敷島ー」
「何?」
「何でもねーよー」
「何それ、変な笠松くん」
「……寝るか」
「ああ」

大部、笠松くんと一緒に暮らすのは慣れたけれど寝るのはなれないなぁ。ベッドは勿論二つある。
そして部屋も別々だった。という過去形である。
そう、今は別々なんかではなく同じ部屋で同じベッドに寝ている。理由は酔った笠松くんが「今日から一緒に寝るぞー」なんて言ったからだ。それだけを覚えて彼は起床し、真っ赤になってその日口を聞いてもらえなかったが。それから一緒に寝ている。

「笠松くん」
「ん?」
「何でもない」
「お前な……ったく、おやすみ」
「おやすみなさい」

仕返しだ、と言わんばかりに先ほど笠松くんがしてきたことと同じことをして、眠りについた。

。。。

日曜日。今日が笠松くんが両親に話に行くという日。一応身形もきちんとして家を出たが、少しばかり緊張しているらしい。口数がどうも少ない。

「笠松くん、事故るなよ」
「……んなことしねぇよ」
「ああ、信じてる」

カタカタ震えている手の上に自分の手を乗せる。過剰に反応したが抵抗はなく、震えも少しおさまった。それに、口数も増えた気がする。

「ふあぁぁあ」
「眠いなら寝とけ。まだかかるぞ」
「起こしてくれるか?」
「当たり前だろ」
「じゃあ、少しだけ眠るよ」
「おう」

笠松くんの左手を握ったまま、瞼を閉じる。太陽の光が眩しいがその光の暖かさにすぐに音など聞こえなくなった。
.
.
.
.
「い……敷島、……っおい!」
「うわっ」
「ニヤニヤしながら寝やがって……もう平気か?」

そう言われて口元に手を当てようとすれば動かない手。よく見ればまだ笠松くんと繋がっているのである。しかも、笠松くんから握っているのだからほどけない。

「か、笠松くん?」
「……んだよ」
「ほどいてはくれないか?」
「お、お前から繋いできたんだろ!」
「これじゃあ、降りれないぞ?」
「今外そうと思ったんだよっ」
「……はは、そうか」

ハズレてしまった手がどうしても名残惜してくて、寂しい気持ちになった。私は相当、笠松くんに惚れ込んでいるらしい。まあわ自覚はあったが。なんせ、四年も笠松くんを待っていたのだからなぁ。良心が主に母がうるさかった。彼氏は?なんてよく聞かれたものだ。

「おかーさーん、おとーさーん、帰ったよー」
「お、邪魔します……」
「あらまぁ!」
「笠松幸男です」
「笠松さんね!やだー、うちの娘がお世話になってます。敷島杏奈の母です」

この話し方、正直いって面倒くさい。それに、母がうるさい。

「こちらこそ、お世話になっています」
「ほら、硬っ苦しいのはもう置いといて……お父さんは?」
「ああ、今翔太が帰ってきたから話してるわ」
「そっか。翔太が……え、翔太!?」
「ええ。ほら、上がって上がって!笠松さんも、上がってちょうだい」

確かに、大きめの靴が並んでいる。あの子、また大きくなったのだろうか。今確か大学の寮で暮らしていたはずだ。
ちなみに、人前では貴史さんだが家族内ではお父さんと呼ばなければ母がうるさいため、お父さん呼び。私的にはあまりその呼び方をしたくないのだけれど。

「貴史さーん?杏奈帰ってきたわよー」
「ああ、お帰り……ん?」
「ただいま、お父さん。こちら、笠松幸男くん」
「ああ、いつも話してた……こんにちは、敷島?島屋と申します」
「あ、笠松幸男です」

とりあえず、笠松くんカチンコチンに固まっているんだがどうしたらいいんだろう。翔太は翔太で何も言わずに笠松くん見て固まってる。
翔太が先に我に返って、お久しぶりですと言って部屋から出て行った。母はいつの間にかおらず、結局ここにいるのは私と笠松くんそれに貴史さんだけだった。

「立ってないで、座ってください。ほら、杏奈も」
「……はい」
「笠松くん座布団」
「あぁ、悪いな」
「いいよ」

貴史さんの部屋だけでなく、この実家と呼ぶべき家は殆どが和室である。畳の匂いというのはとても落ち着く。

「改めて、敷島貴史です。杏奈がなかなか家に連れてきてくれないから今度会いに行こうかと言っていたんだけど、来てくれてよかった」

今初めて今この家に来て思ったぞ。来てよかったって。

「お茶もってきましたよ、お邪魔するわね」
「ああ、ありがとう」
「お母さん、どこ行ったのかと思った」
「お茶をお出ししようと思ってね、どうぞ」
「あ、りがとうございます」

相変わらず笠松くんは油の刺さっていないブリキ人形のように動きがぎこちない。
母は貴史さんの隣に座ってニコニコしている。
目の前に置かれたお茶はホクホクと湯気をあげていて、今の季節に丁度いい温度だった。

「……改めまして、笠松幸男です。本日はお願いがあってこちらに伺わせていただきました」
「はい」

「娘さんを、下さい」

膝に手をついて頭を下げた笠松くんに、私は全く状況が理解出来ず彼の頭をずっと見ていた。

「幸せにします。いえ、させてください」

ようやく理解した時には、涙を流して口元を覆った。こんな事言うなんて聞かされてない。一緒に住むからそれについての許可をうんたらかんたら。そんなことしか聞いてなかったのに、こんな事言われるなんて誰が思っただろうか。

「こんな、男勝りの娘でいいのかしら?」
「……こんな、ではありません。最高の、俺には勿体ないくらいの女性です」

頬を伝って机に落ちる涙。こんな事言ってくれるような性格じゃないことくらいわかってる。お世辞も言えるような性格じゃない。だからこそ、余計に涙が溢れて零れた。

「……よろしくしてやってくれるかな?」
「ありがとう、ございますっ」
「こちらこそ、ありがとう。笠松くん」
「まぁ、滅多に泣かない子だから泣かせるなんて余計のことがなきゃできないけれど、泣かせないでね」
「はい」
「じゃあ、晩御飯食べてって。ほら、杏奈手伝いなさい」
「っ今、から?」
「今日はご馳走よ。大事な大事な娘の婚約者さんがいるからね」

母と父が部屋から出て行ったのを見てから、笠松くんと向き合う。顔を真っ赤にしているなぁ、こういうところは相変わらずだ。

「宜しくお願いします。」

頭を下げれば笠松くんも、先程のように頭を下げてこう言った。

「こちらこそ宜しく」

差し出されたのは青い箱で。ああ、漸く引っ込んだ涙がまた出てきた。開けられたそこには銀色の指輪。右手を取られて薬指にはめられた。

「婚約指輪。予約な」

「馬鹿ッッ」

飛びついて泣いたのは言うまでもない。

それから、指輪を見た母が泣きながらおめでとうと言ってくれてまた泣きそうになったのだった。


。。。
紅華さん
リクエストしてくださってからだいぶ時間がかかってしまいました。すみません。
まだ、二人とも苗字呼びです。素敵なリクエストありがとうございました。我ながら甘めのものがかけたのではないかと思っておりますが気に入っていただけることを願っています。
本当に、リクエストありがとうございました(^^) prev / next

[ back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -