戻ってきたあの人 | ナノ

戻ってきたあの人

07.


囁かな結婚式。
神父は緑間くんが、従兄弟と言うだけでお金を出してくれた征くん。ケーキは小さいながらもあっくんが作ってくれて、ドレスも指輪もさつきと選んだ。テツヤさんも大くんと指輪を選んでいた。黄瀬くんは忙しいのに協会を選んでくれて、今日も仕事を休んで来てくれている。


「誓いますか?」


そう聞かれて、二人して顔を見合わせ笑う。指輪をつけた左手の薬指が誇らしげに見えた。
あっくんの作ってくれたケーキはとっても美味しい。さつきは私たち二人を見て感動してくれていた。緑間くんは神父の格好をしながらピアノを、バイオリンを征くんが弾いてくれた。黄瀬くんはドレスを褒めてくれて、それから男泣き。大くんも釣られたみたいで、泣いちゃった。


「みんな、ありがとう」


でも、一番泣いているのは私かもしれない。
何言ったらいいかわからない。こんなに色々なことしてもらって、私はもう消えてしまうのだろうか。
気づいたのは今朝だった。少しだけ足先が透けていた。靴を履いてしまえば問題なかったけど、それでも気になっていた。


「怜?」
「テツヤさん、私を好きになってくれてありがとう。本当にありがとう」
「何を言って」
「ベッドの隣の引き出し、開けて見てね」
「怜……?」


征くんと緑間くんはわかったのか、私を見て顔を逸らした。私が言いたいことを、したいことを理解したのだろう。テツヤさんは私を視界に入れようとしない。


「黄瀬くん、今日は仕事わざわざ休んでまで来てくれてありがとう」
「そんな、ことっ」
「あっくん、ケーキ美味しかった。また食べたかったなぁ」
「そんなの、いつでも作るしッ」
「さつき、中学高校とお世話になりました。もっとガールズトークしたかった」
「今からでもできるよ!したかったとか、言うなぁ!」
「緑間くん、神父さん似合ってる。ピアノやっぱり上手。ありがとう、忙しいのにホント」
「そんなこと、ないのだよ。いつでもピアノくらい弾いてやる」
「征くん、本当に何から何まで迷惑掛けっぱなしで本当にごめんなさい。今日は、ありがとう」
「これからもかけるんだろう?謝ることは、ないさ」
「大くん、最初信じてくれなくてどうしようかと思ったけど信じてくれてありがとう。これからも、テツヤさんをよろしくね」
「お前が、お前が支えるんだろうが!お前の夫だぞ!」
「うん、そうだね、そうだね」


ねぇ、テツヤさん。
あなたの顔を見たくないんです。あなたの前では、最後までキレイでいたい。泣き顔で行きたくない。


「テツヤさん」
「…………」
「今まで、短かったけど、私幸せだったよ」
「……ッ」
「テツヤさんに中学の時あって、努力して練習している姿に心奪われてね。大くんとバスケしてるテツヤさんが大好きだった」


何も言わない、テツヤさんの前で私は消えていく。


「誠凛で優勝したウィんターカップのとき、本当に自分のチームみたいに嬉しかった。だって、誰よりもテツヤさんがかっこよかったから」


もう、最後だ。ドレスが床に落ちた。何故か服は来てる。コンビニで目覚めたままのそのままの、服装。


「テツヤさん、テツヤさん」
「……は、い」
「キス、してください。外国では会った時の挨拶とお別れの時の挨拶なんですから」
「嫌、です」
「私からの、お願いです。それと、」


―あの日、デート、行けなくてすみませんでした


「今まで、ありがとう」


テツヤさんの唇と重なった瞬間、ベールやピアスが落ち、私はみんなの前から消えたのだろう。みんなの目が見開かれた。
ああ、テツヤさん泣かないで。さつきも、大くんも黄瀬くんも、泣かないで。私ここにいるから。


「怜!!!!!愛しています、これからもずっと!!!!!」


涙が頬を伝って地面に落ちた。








あの日から早1ヶ月が経とうとしていた。相変わらず僕の指には怜との指輪がはまっている。これが、彼女との最後の繋がりだから。
怜が消えてしまった日、装飾品すべてを床に落としていた怜。指輪も落ちていると思ったのになかった。だから、彼女が指輪をしていっていると思ってる。記憶の中では笑っている彼女。でも、もう僕に笑いかけてくれることは一生ないのでしょうね。
聞こえるんです、あなたが最後に言った今まで、ありがとう、がずっとずっと聞こえるんです。


「怜ッ、怜……怜…………!」


あなたが居なくなったあの日の夜から寂しくて、あなたは何処だろうと星を見るために夜空を見上げたりしてるんです。
手紙、読みました。引き出しの中に入っていたあなたからの手紙。何ですか、あの文字は。涙で滲んでいた。それの内容は新しい人を見つけて、幸せになってくれという内容。僕を馬鹿にしてるんでしょうか。あなたのことをそんなに簡単に忘れられるわけないでしょうが。馬鹿ですか、あなたは。

忘れるわけがありません。だって僕はあなたを


「誰よりも愛しているのですから」


だからあなたの分まで、僕が生きますね。こちらこそ。


「今までありがとう」


左手の薬指にはまっている指輪を撫で、立ち上がった。



Finn


→あとがき
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