06.
「お久しぶりです」
緑間くんはメガネのブリッジをひたすら触り続け、征くんは私から視線を外すことは一向になく、あっくんに至っては口にしていたまいう棒を口から落とした。
「な、なななな、何故尾崎がここに!?」
「会わせたい人って彼女のことだったんだね?」
「嘘だー……怜ちん?生きてたの?」
緑間くんは顔を真っ青にして震える指で私を指さす。
案外怖いものはダメなんだ……そう言えばビビってないのだよ、とかよく聞いたなぁ。
征くんは私から視線を外すことはないけれど、一応冷静。
あっくんはまいう棒の袋をあけ、再びそれを口にする。あっくんは状況を飲み込むのが意外と早いからね。
「ううん、死んでるよ。でも、テツヤさんのお願い叶えるために成仏できなかったの。ちなみに目覚めたのはコンビニ」
「え、そうだったの?」
「そうだったの」
さつきの言葉に苦笑い。それから、みんなの顔をよく見ていく。ふよふよと飛ぶことも出来なくなり、今では自分でモノに触れるし飲み物も飲めるし食べれる。ちなみにお腹も減る。喉も乾く。普通の人間になっていた。
「それで、今日俺たちを呼んだ理由は彼女に会わせたかったからだけではないのだろう?」
「ええ、桃井さんにお願いがあって」
「え?私?」
「それとみなさんにも」
それから結婚式を挙げたいということを伝え、頼みたいことをすべて頼んだ。
みんなはそれぞれ素早く動いてくれた。テツヤさんが動けない理由はただ一つ。私が死んでいるからだ。
自分で準備しても構わないけれど、私一人を残してどこかに行きたくないらしい。
いつ消えるかわからないから。
「じゃあ、怜ちゃんは私とドレス選ぼう!ね?」
「うん」
「俺、いい教会知ってるっスよ!」
「ケーキ作りに帰るー」
「俺の従兄弟だから、金はだそう」
「赤司くん、それは……」
「黒子、指輪はどうするのだよ」
「付き合うぜ、指輪買うの」
生暖かいものが頬を伝う。ああ、涙だと分かれば恥ずかしくてみんなに背を向けた。
「怜ちゃん?」
「っ……ぅ」
「泣いてる、の?」
「ぁりが、と……」
腕を引かれて腕の中に閉じ込められる。テツヤさんの服の模様が目に入った。ベストを握り締め、声を殺して泣いてしまった。
泣きやまなきゃダメだってわかってる。みんなが困ってるってことも分かってる。でも、とても嬉しくて幸せで。これがもうすぐ消えてしまうのだと思うと辛くて。そんか感情が入り混じりあって苦しい。
「ありがとうございます」
「え?」
「僕に会いに来てくれて、ありがとう……」
だったら私は
「私を好きになってくれてありがとう……」
本当にありがとう。大好き、大好きですよ。
テツヤさんに出会えてよかった。
周りの目も気にせず、キスを落とすテツヤさんの顔は涙で濡れていた。この涙も、この顔も、私のものだけだと思うと嬉しくて。でも、この涙は私のせいで流れているのだと思うと苦しい。
「テツヤさ……っ」
「好き、ですよ」
周りを見れば静かに退室してくれたようで誰もいなかった。それをいいことにテツヤさんはキスをする。優しいキス、でも激しくて、愛おしい。
「んっぁ」
「怜ッ」
ああ、愛おしい。なのに私たちはどうして離れてしまうのだろう。いつか必ず私たちは離れなくてはならない。
不謹慎だが、どうしてあの時子供を助けたのだろうと思った。テツヤさん同様に私も子供が好きで、テツヤさんの子供とテツヤさんと、歩きたかった。さぞ、幸せなんだろう。
でも、もう叶わない。叶いはしないのが悲しい。
「ありがとう……」
優しく優しく抱きしめられ耳元で囁かれた。
愛おしくて大切なあなたと、離れるのが辛くて、それを隠すかの様に私から唇を寄せた。