戻ってきたあの人 | ナノ

戻ってきたあの人

01.

恋人を失った時、こんなにも喪失感があったのかと痛む胸を押さえた。分からない、彼女が亡くなってしまったら悲しむのは当たり前だと思っていた。だが、思っていた以上に胸が痛む。キリ、と痛むその胸は彼女が亡くなったことを現実だと自覚させた。


「怜さん」


ああ、涙が冷たい。冬に外で涙を流すのは冷たくて頬に少しだけ痛みが刺す。服で拭えばその服さえも頬を掠める度に痛かった。
こんなにも僕は、彼女を好いていたんですね。気付かなかったな。優しくて子供が大好きで、それでいて休日はブックカフェや図書館、本屋に行くほど本が大好きな、そんな人。昨日まで電話をしていたのに、おは朝の運勢最下位だったんですか?
死亡原因は建設中のビルから鉄骨が、前を歩いていた子供の上に落ちていったそうだ。その子供を突き飛ばし自分はその鉄骨の下敷きに。どこの野球漫画ですか。子供かばって亡くなるなんて、カッコつけすぎですよ、怜さん。


「デート、初めて約束を破りましたね」


はっ、と息を吐けば白く染まる視界。
病院から連絡が来た時には驚いた。行けば即死した怜さんの姿。近くに怜さんが助けたであろう子供とその子供のお母さんらしき人物。僕の前に怜さんの御両親が来ていて、お礼と謝罪を 子供と繰り返されていた。
本当に死んでしまったんだな、と実感させられた。


「テツ」
「 青峰くん」
「お前、」
「ええ、ご連絡したとおりです。怜さんが亡くなりました」
「 そうかよ」


もともと帝光中で、バスケ部のマネージャーをしてくれていました。桃井さんのような情報収集能力を持っていたわけではないので、三軍のマネージャーをしていてくれて。
それに、いつも練習がきつくて吐いてしまう僕に優しく接してくれ、また他の人たちにも優しくて人気のあるマネージャーでした。僕の居残り練習にも付き合ってくれていて、その時に青峰くんと仲良くなったようです。


「桃井さんは?」
「ずっと泣いてる。家ん中で」
「 入りますか?」


家の鍵を出せばああ、と短く帰ってきた返事。怜さんは家に近かったという理由で桐皇に行って、ずっと青峰くんといた。それが3年間羨ましくて。でも大学はまた同じで、しかも専攻も同じだったのですごく顔が綻んだのを今でも覚えている。


「クロくん、顔顔」
「え?」
「珍しく幸せそうな顔してるよ」


久しぶりに会ってこのセリフ。恥ずかしくて顔を背けた。


「ほっ、放っておいてくださいッ」
「私に会えて嬉しいの〜?」
「そう、ですけど」


僕の言った言葉に僕はもちろん彼女も照れてくれて、それからはずっと一緒にキャンパス内いて。実は中学の時から好きだと言えば私も、そう言って抱き着いてくれましたね。顔を真っ赤に染めて、離れていったのは残念だったのでこちらに引き寄せて抱き返しましたが。


「どうぞ」


扉をあけて中に入る。そうしたら、何故かギョッとさせる人がいたのだ。













「おかえり、クロくん」













「僕は夢でも見ていますか?」











首を傾げて困ったように笑った彼女は青峰くんには見えていないようだった。
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