two 
コンビニで99円のビニール傘を購入しようと思ったら何故か赤髪美男子は私の手からするりと持ってしまい、そのビニール傘をレジに持っていってしまった。


「え、ちょ」
「99円です」
「カードで」
「畏まりました」


コンマ一秒で進んでいくその会話についていけなくて、ビニール傘をカードで買った人を初めてみた衝撃。彼はどこかのお偉い様だろうか。ブラックって初めてみたよ。そんな初めてだらけのコンビニから出て傘をさす。


「あの、ありがとうございます。えっと」
「赤司征十郎。好きなように呼んでくれ。君は」
「あ、佐倉頼です。赤司さん、有難うございました」
「いや、俺が勝手にやったことだから気にしないでくれ」


うん、有難い。それよりも明日からどうしようか。職場でも顔を合わせたくないし、喋りたくもない。というかぶっちゃけ言ってしまうと同じ空気を吸いたくない。
もう大声で暴言吐いて往復ビンタして、馬乗りになってあの鼻にかけた顔面を殴り飛ばしたい。出来るのならば頭も踏みたい。


「…………ぃ、お……!…………おい!」
「ッ!?あ、すみません、ぼぅとしてて」
「平気ならいいんだ。辛かったり辛くなったりしたらすぐ言ってくれ」
「あ、はい」


どうして赤司さんは見知らぬの私にこんなに良くしてくれるんだろうか。赤司さんにとったら、困っている人を助けるのは単なるボランティア活動かもしれない。でも、それでも傷心の私の心にじわりとその暖かさが沁みた。ブルブルと震えて冷えきっていた心はいつしか赤司さんの優しさでだんだんと暖かくなっているのだ。


「赤司さんは何故こんなことを?」
「何が?」
「見知らぬ者に優しくして、いつもこんなことをしているんですか?」
「そんなわけないだろう?」


真っ暗な道。街灯がポツリポツリと光る。そこには雨にも関わらず懸命に蛾が集まりあっていた。足元を見ると蛾の亡骸がいくつか落ちている。


「佐倉さん、君だって目の前で生きることを諦めている人を見たら助けようと思わないかい?」
「 思いません」
「何故?」
「はっきり言ってしまうと面倒くさいから、ですかね」


生きるのを諦めたのならば放っておいてあげたらいい。無駄に関わって面倒なことになるよりはマシだ。そういうことが嫌いな私は関わりを自ら持とうとは思わない。


「あぁ、そうかもしれないね」
「え?」
「確かに面倒くさい。でも、それでも、偽善者と言われてもいい。ただ、そんな絶望してしまった顔が笑ってくれたのならば、きっと助けた甲斐があるんだろうね」
「そんなことのために?」
「そんなこと、ではないよ。俺も昔、笑わなくなってしまってね。でも、仲間が笑ったり頼ったりすることの大切さに気づかせてくれたんだ」


思い出しているのか、上を向きながら少し口角を上げている赤司さんはすごく楽しそうで、少しだけ羨ましかった。仲間なんて私にはいない。ネガティブだとかそういう思考だからそう言っているのではなく、本当にいないのだ。友人と呼べる人も、恋人と呼ばれる人も、所詮は人なのだから裏切るのだ。


「いい、ですね。そういう方々がいらっしゃって」


嫌味みたいな言い方になってしまった。そう気づいて口を押さえるが、聞こえているのは当たり前だった。普通にしゃべるようなボリュームで発したのだから。


「君にはいないのかい?」
「ええ、仲間と言う人たちはいません。というか作りません、作れません」
「自然にできるものじゃないのかい?部活とか」
「帰宅部でした」
「――ネガティブ思考だな、君は」
「よく言われます」


くつくつと笑っている赤司さん。よく笑う人なのに、昔は笑わなかったとか信じられない。どれだけいい人たちなんだ、その仲間さんたちは。
羨ましいな。それなのに、私は臆病だと思う。


「ッ……ぁ」


体がだるくて重い。でもそんなこと言えなくて黙りを決め込もうと思った瞬間、視界がぶれる。何が起きたのかもわからない。ただ、しんどくて辛くて。



ああ、死ぬのかな。



簡単に死ぬことを望んでいた。


−−−−−−−赤司side


たまたま帰りに公園を横断して、たまたま目に入った女性。歳は同い年かもしくはそれより下。そう思っていた。近づくと手に携帯を持っていて、空を仰いでいた。


「…………」
「何してるんだい?」


俯いた瞬間に目の前にたってやると驚いたように目を見開き、眉を顰めた。彼女の本心は既にわかっている。
「放っておけ」
そんな雰囲気を醸し出しながら俺を睨んできた。随分と長い間雨に当たっていたのか、顔が蒼白で見ていられない。いつもの俺なら放っておいたかもしれない。それが、本人が望んでいることなのならばと。だが、何故か彼女は自分と似ている気がしたのだ。放っておいたら、彼女は壊れてしまうそう思った。


「早く帰らなきゃ、家の人が心配するだろう」
「別に……」
「迎に来てもらわないのか?」
「そんな人いません……」
「なら傘を貸すよ。家に帰ったらいい」
「帰る家がないですから、いいです」
「じゃあどうする」


何となく話が噛み合わない気がした。それはいつも周りの奴らが俺に気を使っているのかもしれないが傘を貸すと言った時点で返ってくるのは、俺が濡れてしまうからそんなもの構わない。そういう返しだった。上司がそう言っているのだからと素直に受け取って帰っていったりするやつらもいるが、彼女は例外だった。傘よりも帰る家のほうを聞き取ったのだろう。それよりも、帰る家がないって……家出なのか、家の方と喧嘩でもしたのか、それは知ることはないだろうが、頑なに彼女は家に帰ることを否定したのだった。




I don't go home from today.
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