final 
赤司くんから少しだけお酒の匂いがするのは気のせいだろうか。
彼が部屋に入ってきてからずっと沈黙が続いていて、かれこれ10分程どちらも口を開いていない。


「……高尾さんに、言われたの。だから、言わなきゃいけないって思った」
「……?」
「私はさ、ほら、何て言うの?馬鹿でさ、今まで恋愛とかしてきてなくて」


何で一言話すたびに視界がぼやけて鼻声になってくのよ。


「何にも、知らなくてッ……でも、赤司くんが好きで」


下手くそでもいい、伝えたいことを伝えよう。


「隣にいたらいけないだとか、そういうのも、わからなくて……邪魔だったらとかも考えてなくて……」


何でも良かった。伝えたいことを全て赤司くんに伝えてしまいたかった。スッキリしてしまいたいという気持ちもあったけれど、それよりも私が今思ってることを知って欲しかった。
いつもいつも、他人には何も言わなくてどうしたい?と聞かれれば相手に合わせる返事をいつもしていた。今までもずっとそう。相手に合わせてた。
でも、さつきさんや赤司くん、たくさんの人に出会ってそんなことしなくたっていいと思えた。


「私は、赤司くんとあって変わった……。大嫌いな自分がどっか行った気がした。あんなにボロボロで汚い私を受け入れてくれた。だから、本当に有難う」
「汚くない、頼は汚くなかったよ。あった時からそうだ。雨に降られて涙を流していた時も、耳が聞こえなくなっても笑っていた時、頼は綺麗だった」


私を唯一受け入れてくれた人。ずっとそばにいてくれた人。もうきっとこんな人いない。でも、いてくれた。だから、私はそれに酔ってたのかもしれない。


「俺にとって君は特別だった。他の女性達のようにどこか気を使わなくていいところがあって……君の心からの笑顔はきっと綺麗だろうと思った」


震えていた手を包んでくれた赤司くんの手はとても暖かかった。いつもは冷たいのに、暖かくてすごく不思議だった。お酒を飲んでいるせいだろうか、暖かい。


「だから、それを見るまで俺は頼、君を離すつもりはなかった。離れていってもいいよ、そうは言ったけど離れていくはずがないどこかでそう思っていた」


伏せられた顔ではどんな表情かわからない。
まるで少し前の私だ。怖くて、それでいてどんな顔をしたらいいかわからない、なんて思われているかなんて知りたくないから下を向く。
でも、そんな私を変えてくれたのは目の前でうつむいている赤司くんだ。


「でも、君は離れていった。正直驚いた。それと同時に君を手放してしまう状況を作った俺が憎い。それに辛かった、置いていかれるというのはこんなにも辛いのかと初めて知ったよ」


でも赤司くんはそうやってうつむい生きてきたわけじゃない。私は違うだってほら、こんなにも綺麗な顔で笑ってる。


「俺の元からいなくならないでくれ」


そして、泣いていた。


「でも私は、邪魔でしょう」


ふたりしてボロボロと泣いていて、何言ってるんだろうか。馬鹿みたいに話してることループして、二人で泣いて、私なんか赤司くんに引き寄せられて抱きしめられてる。


「好きな人を邪魔なんて思うはずがないだろう」
「でも、私はあなたの人生を壊しそうだから」
「何度も言わせないでくれ。頼は邪魔じゃない。俺にとって必要な人だよ」


いてもいい、その安心感に私は一生もう涙は流さないのではないか、と思うほどに涙を流した。私はこんなにも幸せでいていいのだろうか。何度も自分にそうやって問うてしまう。
今までこんなに幸せなことなんてなかった。ずっと失ったものの方が多くて、その度に涙して失っては泣きを繰り返していた。でも結局は私は失っても手に入れても涙を流してしまうのだから、相当な泣き虫なのだろう。


「佐倉頼さん、好きです。だから、戻ってきてくれませんか?」
「は、いッ……勿論です」


ロマンの欠片もない、他人の家で、私なんかベッドの上に座っているのだ。二度目の告白、ああやっぱり私はこの人がすごく好きだと思う。


「頼、もしよければ―――」


青い箱を手に乗せて笑っている彼とは真逆に、大泣きした返事は分かりきったことだろう。


「―――――」


出会って月日なんかそんなに経ってない。それに、なにか二人でしたわけでもない。一緒に利害の一致で住んでいただけ。しかも、私なんか大怪我をしていたし、すごく彼にとって邪魔な存在だと思っていた。けれど、こうやってこんな私でも受け止めて抱きしめてくれる人がいた。
この世界は残酷で、神が分け与えてくれるものなんて私には不幸しかないとずっと思っていた。でもその不幸でさえこうやって幸せに変わった。
この世界は残酷。でもそれでも、その分を補う幸せが沢山溢れてる。それを私は教えてもらった。


「赤司くん、有難う」
「赤司と、まだ呼ぶのか頼」
「………………征十郎、さん」
「よく出来ました。さぁ、桃井たちに礼を言いに行こうか。下できっと待ってる」


抱き上げてくれた彼の顔は幸せそうで、ああ、やっと私も幸せになっていいのだと実感した。



Finn
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