thirtysix 
※この話に出てくるのは『疑似恋愛』というこのサイトで連載されていたものの話が混じっています。疑似恋愛の話を知らなくてもわかるように書きますのでご安心ください。
こちらはNOCTURNを書き始めた時から決まっていたことですので変えることはできません、すみません。高尾に好きな人がいるということになっていますのでご了承ください。それでも構わない、という方だけスクロールしてください。苦情や中傷は受け付けません。何かありましたら御手数ですがご連絡ください。



。。。



ドアがノックされた音と高尾さんの声。返事をすればひょこりと覗くその顔に素直に可愛いと思った。


「お邪魔します」
「私の部屋じゃないですけど」


相変わらず芝刈機が欲しいほどだ。
私の切り返しに元気が出たと思ってくれたのか笑って椅子に腰掛けた高尾さん。
今思えば高尾さんって何cm何だろう。緑間さんと立ってると小さく見えるけど、それでも日本の平均男性よりは大きいんじゃないだろうか。座高高くないし、足長いんだろうな。


「ん?俺なんか変?」
「いえ、そういうわけじゃ」
「そ?ならいいんだけどさ」


話は、と聞けば笑っていた顔が少し固まった。直ぐにそれは治ったけれど、耳が聞こえなかった分いろんなものに注意をしていたからだろうか、そういうことはよくわかるようになってしまった。


「俺は高校の時に1人だけ付き合った女の子がいてさ。その子が今でも好きなんだわ」


高尾さんらしいと思った。一人の女性をずっと好きでいる彼。
だからだろうか、家に来いと言ってくれたのも、今日も迎えに来て抱きしめてくれたのも。下心を感じることは全くと言っていいほどなかった。まるで家族が家においでと言ってくれたかのような感じだった。家族、はよくわからないけれどいたらこんな感じなんだろうということくらいはわかる。


「俺に告白してきたんだけどさ、告白した理由がすげぇんだぜ?罰ゲームでってさ」
「え……」
「俺はその事知ってたし構わなかった。でも、好きだったんだ」


何故高尾さんが私にこの話をするのか意味がわからなかった。言ってしまえばそんなの知らない、である。知ったこっちゃない。けれども、最後まで聞かなきゃいけないんだと、どこかで思った。


「俺がすごく好きだったからさ、逆にそれはその子に罪悪感を与えてしまった」


高尾さんは悪くない、そんなこと彼の思い出には言えなかった。きっと自分でもわかってる。それでも、好きになった弱みである。


「別れ話を言ってきたのは彼女からだったよ。その時に嫌いだと言われた。友達に戻ろうとも。下唇を噛みながらそういった彼女は泣いてたよ。俺は後ろ姿しか見てることが出来なかった。
そのすぐ後だった、彼女の幼馴染みからメールが来て悔しくてさ。大嫌いって言われたことも、別れてしまったことも、癖に気付くことができなかったことも、嘘をつかせてしまったことにも」


メールの内容は下唇を噛むのが彼女が嘘をつくサインだったということ。それさえ知っていれば手放さなかったのに、友達なんかにはならなかったのに、高尾さんはそう言って笑っていた。きっと笑っていられるほど、楽しい話じゃないのにどうして笑っていられるんだろう。私にはわからないや。
無理しているのは明確だった。


「恋は人を傷つける。たとえそれが誰であろうと。愛を育むのは大変でも崩れる瞬間はあっという間だ」


きっと高尾さんは恋をするな、ダメだと言ってるわけじゃない。私は恋愛の“れ”の字も知らなかった。そんな私が好きになったのは、とっても恋愛するのが難しい相手。何も知らなかった私が好きになっちゃいけない人だった。
恋愛の辛さを難しさを知らなきゃいけなかった。
でも今それを知って何になるだろう。新しい恋をしろということなのだろうか。


「もうすぐ赤司が来る。今言ったこと忘れないで」
「へ?赤司くんって……今ですか?」
「うん。真ちゃんが呼んでたからね」


今言ったことを忘れないでって……私は高尾さんの話から何を汲み取ればよかったんだろうか。
私が疑問に思ったのはたった一つだけ。


「あの、高尾さん」
「ん?」
「今も、好きですか?」
「うん、勿論」


その笑顔を見たらすぐにわかってしまった。それから、何を言いたかったのかも。
高尾さんは私と同じ馬鹿ですよ。それを伝えるのは何を使ってでもいい何で伝えてもいい。だから、どうか


「高尾さん、伝えてあげてください。その人に彼氏がいようが何だろうが伝えて下さいっ。それから、ちゃんと高尾さんも前に進んで。私も前に進みます。幸せになってください」


きっと一番大切なのはどんな結果になってもいい。素直に自分の気持ちを伝えることだ。それを高尾さんはできなかった。別れようと言われてわかったと、優しい彼は言ってしまった。
私は何を怖がって、彼からの言葉を拒絶してしまったのだろう。どんなに怖くても、話を聞いて伝えなきゃいけない。一方的じゃダメなんだ。


「……気が向いたらね」
「必ず、ですよ」
「はは!そんなこと佐倉ちゃんに言われるとは思ってなかった。頑張るよ、俺も前に進めるように」
「……はい!」


扉が閉まった後、目の端を濡らしていた涙を拭う。それから深く深呼吸をした。


「佐倉ちゃん、赤司くん来たけど……今大丈夫?」



「はい」


深呼吸をもう一度。
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