何があったのかはわからない。ただ、赤司から彼女を手放したとは言い難い。赤司は赤司で自由であって自由でない不安定なところにいるのはわかっていた。
家に縛られているわけではない。それを肯定することはできないが、昔よりも赤司は家に囚われることも縛られることもなくなったと緑間から聞いている。
それでも縛られている部分なんかもあるだろう。
「助けてやれなくてゴメンな」
それは1人の患者として、また友人と言っていいのかはわからないが、友人として。
。。。
「……ん」
「あ、起きた?」
「高尾、さん」
知らない天井、なんてふざけては見たけど実際ここがどこだかすごく不安になった。
高尾さんが隣にいるのだから、高尾さんの家だろうか。彼がずっとそういえば言っていたなぁ。赤司くんの家がダメならうちにおいでって、ずっと。変な意味でなかった分すごく嬉しかった。
「おはよおはよ。ここは桃ちゃん宅」
「桃ちゃ……さつきさんですか?」
「そそ!今さ、8時だけど飯食ってきた?」
「あ、いえ……」
「おけ!」
そう言って部屋を出ていく彼の背中をただ見てるだけ。行かないでなんていうことも出来なくて、気力もわかなくて、部屋を見渡して膝を抱えた。
何をしているんだろう。私は、赤司くんの隣にいたかっただけなのに。
私は今もきっとこれからも、あなたしか、赤司くんしか、いらないのに。
「……頼ちゃん、入ってもいい?」
「はぃ」
萎んでいく言葉、手の震えが、体の震えが止まらない。寒いとかではなくて、今頃襲ってきた悲しみだろうか。
「はい、おにぎり。あ、私が準備したけど私が作ったわけじゃないの。テツくんがおにぎりくらいならぁって言って作ってくれたんだ」
黒子さんもここにいるんだ。
「緑間くんに見てもらったけど足が少し腫れてるって。怒ってたよ」
緑間さんも、高尾さんもいる。
さつきさんも、目の前で綺麗に笑ってる。
お盆に乗って運ばれてきたおにぎりは少し形が歪で、三角のようで丸いそれを手に取る。塩の味がするところとしないところ、すごく辛い部分まである。それでも、空きっ腹にはすごく美味しくて、まるでアニメの中に出てくるシーンのようにボロボロと涙をこぼしてしまった。鼻が詰まって食べにくくて、無せれば無言で差し出される水。その優しさが今は辛くて、それでいて沁みる。
「高尾くんが話したいことがあるって言ってたけど……今大丈夫?って無理か」
「すみま、せ」
「いいのいいの。謝らない謝らない」
苦笑した彼女は私の背中をまるで出会った時のようになでてくれた。抱きしめてくれるその腕も、忘れることのない、暖かいもの。
「泣き止んだらって高尾くんに言っとくからゆっくりして」
「はい」
「うん、じゃあ、どうしよう。私ここにいてもいいのかな?何も話さないけど……」
「いて、ください」
「わかりました」
強いわけじゃない。私は弱っちくて、それでいてきっと赤司くんにとってはちっぽけな存在。それでも私は、あなたのそばにいたかった。でも私は、あなたの自由を奪ってまで傍にいたいとは思えなかった。これは果たして正しいことなのか、それとも正しくないのかなんてわからない。けれど、それでも、やっぱり傍にいたかったんだ。私に勇気と知恵と、それと自身があればもっと違う行動ができたのだろうね。
prev / next