thirty 
どうしても恥ずかしくて、口を開けては閉じるを繰り返して何度目か。何かを話そうと口を開いても先程の赤司くんの言葉が耳から離れてくれないのだ、嬉しくてニヤニヤとしてしまうほどに。


「頼」
「は、い」
「あんなところで言うことではなかった。すまない」
「あ、あんなところって……そんなことないよ。あそこは私と赤司くんが初めて会ったところだし」
「……よかった、覚えていたんだな」
「当たり前」


実は、と話してくれたのは初めて会ったあの場所だから言ったということだった。ロマンがないなんてそんなの全然違う。
ありすぎて嬉しかった。あの時の私の考えが馬鹿みたいだった。


「返事は待ってない。離れたい時に君が離れればいい。ただ、俺は傍に居て欲しい」


それに頷かないはずがない。
でも、本当に私なんかでいいのだろうか。また、こんなことを口にしてしまえば赤司くんは何かを言ってくるのだろうけれど。


「頼は、今後どこかへ行く予定はあるのか?」
「ない……ね」
「そうか。なら、足が治ったら好きなことをするといいよ。どこかへ行こうか。前に言ってたろう?買い物が――」


今日は赤司くんもよく喋った。饒舌になった彼はこれから何をする、どうしたいとしきりに聞いてくれた。私は赤司くんがいたらそれでよかったからから、相槌を打って彼の話を聞いていた。
街灯に照らされた時見えた彼の顔はうっすらと赤く感じた。


「幸せ」
「え?」
「幸せすぎて怖い」
「……」
「この幸せがいつか壊れるのかと考えてしまう自分が嫌」


人が信じられない、それだけで私はこんなに嫌らしいことが浮かんでくるのだ。自分が嫌になる、嫌いになる。
赤司くんが信じれないわけではない、と断言することだけはとても難しくむしろ逆だった。信じれない、とどもりながら言ってしまうかもしれない。


「私は……手放して手放されて。そんな生活ばかりで。いつか、私も赤司くんを手放してしまいそうで、手放されてしまいそうで」
「しないよ。しない」
「それは、信じなくてもいい?」
「信じて欲しいけれど、信じれないのなら仕方のないことだよ」

ガレージの中に車を止めて、私を下ろしてくれる。

「俺は仕事で忙しいからいつも構ってやる、というわけにはいかない。それはわかるね?」
「……う ん」
「でも、その分俺は君を大切にするよ」
「信じれない」
「これから、信じれるようになったらいい。気にしなくても構わない」


ああ、そんな日が来るって信じてみるのもいいかもしれないね。
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