twentynine 
車から降りて向かった先はあの、赤司くんと出会った公園だった。小さな、何の変哲もない公園。

「……頼」
「……何でしょう」
「俺はね、すごく幸せなんだ。仕事に行く時に行ってらっしゃいと言ってもらえる。帰ってこればおかえりなさいと言ってもらえる。これだけでとても幸せだ」

暖かい缶コーヒーを握りしめる。少しだけ、寒い。それは赤司くんだって同じことなのに。彼の首に巻かれていた白いマフラーが私の首に巻かれたのは、寒いと感じてすぐのこと。

「だめだよ、赤司くんが風邪引くから」
「男は女性よりも体が丈夫に出来てるからね。気にしないで、俺がしたいからするんだ」

いつもそう。
自分がしたいからって、全部してくれる。私はそれに甘えてばかり。

「赤司くんはいつもそうだ。これ以上、優しくしないで……」
「何故か、と理由を聞いても構わないだろうか」
「ダメ。聞かれても言わないよ」

これ以上好きにならないように、未来を考えた時辛くならないように。

「そうか……でも悪いけれどそのお願いは聞いてやれないよ」
「……」
「言ってるだろう?『俺がしたいからするんだ』」
「じゃあ、これも?これも、したいからするんですか?誰にでもしたかったらするんですか!?」
「誰にでも、なわけないだろう。俺はそんなに軽く見えるのか?」
「なん、で……」

後ろに立ったかと思ったら、後ろから伸びてきて首に巻きついた手。頬には暖かい缶コーヒーが引っ付いて、よく聞こえる赤司くんの息遣い。缶コーヒーを持っている手は暖かいのに、もう片方の手はとても冷たくて。

「も、やめて……お願いです……る時つら……からッッ」
「聞こえない」
「離れる時辛いからッ、いつかは離れてかなきゃいけないでしょう!?」
「何故だい?言ったろう、君は大切な人だから。ずっといていいんだよ」
「そんなわけにはいかないじゃないですか……!赤司くんに好きな人ができたら私は邪魔なんです!」

私何ボロボロ泣いてるんだろう。私が潔く諦めていたらこんなに苦しくなかったのに。これが恋だって気づかなければ、こんなに辛くないのに。
彼と出会わずに死んでいたら幸せだったろうか。あのまま、監禁されてセックスばかりされて殴られてばかりだったら、幸せだったろうか。
こんな胸の痛み、知らない。知りたくない。もう、苦しみたくない。

「それは、大丈夫だ。俺はもう好きな人がいるから」
「……ぇ」
「好きな人にしかこういうことしないし、家にずっと置いたりしない。幸せだとかも思ったりしない。この意味がわからないか?」
「……自惚れても構いませんか?私は、本当に、ほんと、に」
「好きだ」
「妹だって、いって……!」

流れ落ちる涙は止まることを知らない。
誰かがそんなことを言っていた気がする。それは、まさに真実である。私の頬を伝って赤司くんの腕に落ちて、そしてコートに落ちるそれは、なかなか止まらない。

「それは、自分へ言い聞かせていた言葉だった。俺は、頼と会った時から君を一人の女性としか見ていない」
「ウソ、だ……」
「嘘じゃない」
「だって、いも、うと……って」
「……」
「妹、って言われた、から……諦め、たのッ、に」
「うん」

それから、言ったことはあまり覚えていない。ただ、覚えているのはこういったことだけだ。

「捨てないで……独りにしないで……置いてかないで……」

捨てたのは私、独りになったのも自分から、置いていったのも自分。全部自分からしたこと。でも、そはれでも、被害者だって言い張ってる自分がどこかにいる。でも、そうさせたのは自分だって言ってるのもどこかにいる。

「しないさ。君の、頼の隣にいる。捨てたりも独りにも置いていったりもしない」
「う、そ……そういいながら……ッん」

ああ、冷たい。なんて赤司くんの唇は冷たいのだろう。
公園での告白、赤司くんにしてはロマンも何も無い、そんな気がした。きっと彼に釣り合うのは、高級ホテルと綺麗なドレスが似合う女性。

「頼、好きでたまらないんだ、好きだ。だから、そばにいてくれないか。君が背負っているものを俺も背負おう」
「私なんかで、いいの?」
「ここまでさせておいてそれは聞くものなのか?」

もう一度重なった唇はやはり冷たかった。けれど、彼の腕の中はとても熱い、そんな気がした。
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