twentytwo 
コーヒーとチーズケーキを平らげ一息つく。さつきさんもほどなくして食べ終わり2人して顔を見合わせ笑った。
静かな空気の中、先に口を開いたのは私だ。


「さつきさんにとって、恋って何ですか?」
「うーん、難しいこと聞いてくるね……」
「……すみません」
「あ、いいの。恋、かぁ」


水を口に含んで飲み込む。冷たいそれが暖房で温まった体に染みる。
目の前で私に答えをくれようと悩んでくれているさつきさんは、恋をしているからこんなにも綺麗なのだろうか。恋をするから、しているから綺麗になる努力をするから、綺麗になるのかな。よく聞く、恋すると可愛くなるとはそう言う事なのかもしれない。


「わからないかな……でも、恋は傷つくことも傷つけることも覚悟の上でしなきゃいけないものだと思うよ」


その回答に、納得した。


「そうですか……」
「うん。女の子を幸せにしてくれるものは恋だけど、それで傷つく子だっている」


妙に心に広がっていく。
結局私も彼も、どちらも最後は傷つけあっていた。それは、恋をしていたからなのかされていたからなのかは不明だが、傷つけてしまうのは本当にそうかもしれない。私には傷つく勇気がなかった、彼を受け止める勇気も。何一つないまま縋るように付き合って、それで結果私は傷ついる。馬鹿のような話だが、実際そうなのだから仕方が無い。


「お店、出よっか。また赤司くんの話とか聞かせてね」
「えっ」
「ね?」
「……はい」


コートを着て鞄を持って。そのさつきさんの動作を見て自分もコートを着て鞄を膝に乗せた。
忘れてた、そう呟いたさつきさんは私の手を握って言ってくれた。


「“助けて”って言ってくれたら助けるよ。私だって人間だからできないことだってある。けど、助ける努力はできるから」


心に染みる、その言葉に私は笑って礼を言えただろうか。返事ができたろうか。きっと、すこし鼻にかかったような声だったろう。きっと目だって充血していたに違いない。視界がブレブレで見にくかったが、見えたのはさつきさんのイメージカラーのピンク色の髪の毛とカバンだった。


店を出た後もまだかと言うほど買い物をして、楽しんだ。最後の方は見るだけ見てお店を出るという店員からすると迷惑極まりない客になったが、そんなこと気にしていられるような状態ではなかった。とにかく楽しくて楽しくて、ずっと笑っていられた気がする。


「あ、私お手洗い行ってくるけど、頼ちゃん行く?」
「あ、私ここで待ってますよ?ゆっくりどうぞ」
「あはは、何それ!ゆっくりどうぞって……やめてよ、もう」
「ふふ、すみません」


混んでいるそこは女性の列でいっぱいだった。カバンから携帯を引っ張り出せばいくつか来ている電話とSNSアプリの通知。どちらも赤司くんからだった。
さきにアプリを開いて確認すると母親の様な文面に笑ってしまった。


《ちゃんと食べたのか?》
《足は痛くないか?》
《頭痛はないか?耳は?平気か?》


この文面から赤司くんに迷惑をいつもかけているのだな、と実感する。いつもこんなことを思って一緒にいてくれているのだろう。申し訳なく思って、電話をしようと通話ボタンをタップする。


「……もしもし、赤司くん?今平気かな?」
《ああ、佐倉か。構わないよ。それよりどうだい?体は平気か?》
「うん、全然大丈夫だよ。とっても楽しいんだ。今度は赤司くんも行こう?あ、忙しくないときにね!」
《相当楽しいみたいだね。羨ましいな》
「えへ、へ……」
《佐倉……?》


前から歩いてくるその面影に見覚えがあった。頭に浮かんだ答えにゾッとして顔をそむける。今自分が何をしているかわからなくなって携帯から聞こえてくる声をただ流しているだけだった。


「う、そ……」
《佐倉、どうした?佐倉》
「え、ぁ……」
「頼、会いたかった!今までどこにいたんだ!!ああ、その足は!?それに耳まで!誰にやられたんだ」


その声で私の名前を呼ばないで。
無意識に手に持っていた電話を膝の上に下ろし口を開いた。


「助けてください……」


声は想像以上に掠れていた。



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