eighteen 

「んっ……あれ?」


目を覚ますと車椅子に座って赤司くんの隣で本を読んでいた筈なのにどうしてベッドで寝ているんだろう。しかも、赤司くんに与えてもらった新しい部屋の。
何も音が聞こえなくて不安になり電気をつけるために机の上にあるはずの電気のリモコンを探した。触れたそれを操作して電気をつければ壁に掛かった時計が見えた。


「へ!?18時30分!!?」


私は、四時間半程寝ていたということになる。いつの間に赤司くんに運ばれて気持ちよく寝ていたんだろうか。


「おや、起きた?」
「あ、赤司くん!本当にすみません!迷惑をかけてしまって……」
【いいんだよ。それより、補聴器を勝手に外してしまい、申し訳ない。それと、敬語】
「え、あ、補聴器はこちらこそすみません、ありがとうございます。そして敬語……あ!ごめん、忘れてて」


補聴器をしていないことを考慮してくれた赤司くんは携帯を取り出し画面を私に見せてくれる。些細な配慮がとても嬉しく感じた。
机の上にあった補聴器を手渡され、それを付ける。


「聞こえる?」
「うん、聞こえる」
「良かった。えらく静かだから横を見れば気持ちよさげに眠っていたからね。起こすのが偲びなくてここに運んだ。勝手に、悪かったかな」
「ううん、そんなことないよ。寧ろありがとう」


ポケットの中に携帯をしまった彼は車椅子をこちらに持ってきてくれた。ベッドから車椅子への移動はお手の物である。散々言われたからだ。これだけはできるようになれと高尾さんと緑間さんに。今すごく役にたっています、ありがとう二人とも。


「あー!」
「どうかした?」
「いっ、キーンってしたぁ……」
「大丈夫か?」
「ぅあ、はい」


あんまり大きな音とか声とかでキーンと耳鳴りのようなものはしないのだがたまになる。それがまた、すごく頭に響いて痛いのだ。
なんて、それは置いておいて。


「ご飯!準備します!」
「え?今からか?」
「あ、それは……どうにかなるかな?」
「はは、無理だろう今からは。どこか食べに行こうか」
「でも、私こんなんだし……」


そう言いながら車椅子を撫でる。しかし、その言葉に赤司くんは眉を顰め私の頭を軽く叩いた。手が当たるは程度の衝撃に顔を上げる。


「今の発言は頂けないな。車椅子の人達に失礼だ。だからこんなの、なんて言わないで?」
「……そうですよね、ごめん」
「俺に謝ったって意味ないだろう?ご飯食べに行こう?車椅子で入れる場所なんて巨万(ゴマン)とある」


私の後ろに回った赤司くんは車椅子をゆっくり押してくれた。自分でやると言っても笑ってやってあげる、と言って押してくれるのだ。そこまでしてもらうともう嬉しいより申し訳なさが勝ってしまう。ここの家に置いてもらっておいて尚、ここまでしてくれるのだ。赤司くんはとても優しい人だということ。また、信頼していいのかはわからないが、少しはいいだろうということ。
まぁ、すべてまとめると優しくて気のいい人であるということだ。


「あの、それより重かった、よね?ごめん……運ばせてしまって」
「普通だろう?あまりそういうのは気にしないよ。男だしね」
「本当に?なら良かった」
「ははっ大学までバスケをしていたし今でもたまにするからね。それぐらいで根を上げていたらダメだろう色々と」


クスリと笑っている赤司くんを見て、少しだけホッとする。軽い、なんて言われるよりよっぽど嬉しい。軽いと言われると嘘くさく感じてしまうのは私だけだろうか。
でもてっきり赤司くんなら軽かったよ、紳士的な笑を浮かべながらそういうと思ってたのに案外違うらしい。


「さて、行こうか?どこがいい?」
「……どこでも?」
「一番困る答えだな。近場でも?」
「構わないよ」


ということで歩いて行ける距離で、美味しいイタリアンがあるらしい。椅子を退ければ車椅子がそこにそのまま置いて食べれるということで、そこまで押してもらうことになった。自分でやるのに、いいと言ってやはり押してくれる。


「いいのに……」
「俺が押したいんだ。ほら、行くよ」
「あ、じゃあ、お願いします」
「はい。では、発進」
「え!?」


頭を上げ赤司くんの顔を見る。何事かと、キョトンとしている彼は家を振り返り首をかしげた。


「ん?何か忘れ物?」
「今なんて言った?」
「では、発進のことか?」


その言葉に再び笑いがこみ上げてくる。
赤司くんからまさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった。発進、なんて言う人に見えるだろうか。


「俺だってそれくらい言うぞ」
「嘘だ」
「いや、何故さも当たり前のように嘘、と言う」
「言うと思ってなかった」
「はいはい。ほら、動かすよ」


軽くあしらわれて、車椅子が押される。ゆっくりと動くそれはあまりにも違和感を感じるものだった。目線が低いのだ。地面がとても早く動いている感覚に陥った。とりあえず、病院の時から思っていたが普段こういうものに乗らなかった私にとっては、違和感がいっぱいだった。


「赤司くん」
「何だい?」
「私、早く怪我治しますね」
「ああ。そうしてくれ」


ずれた膝掛けを手袋越しに握って元の位置に戻す。ほう、と吐息をつけば視界に白いもやが現れる。もう、寒くて息が白くなるのだ。
赤司くんと出会って、早1ヶ月。早いものだ。




Injuries, healed quickly.
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