seventeen 
三日後、私は結局迎えに来てもらい赤司さんの家に再び帰ることとなった。部屋は以前使わせてくれたそこだった。大きな部屋で、一人で使うには広すぎた。しかも、どこまで信用されているのか、家の鍵を私に手渡して微笑んでいた。


「君の生活に干渉するつもりは全くないんだ。俺がいなくて暇なときは外に出ればいいし、俺がいても何か用があったり暇になったりするのならいつでも出ていい。君は自由だよ」


その言葉に泣きそうになった。
でもそれと同時に寂しかった。でも、赤司さんにも赤司さんの生活があるから何も言えない。干渉してくれても構わない、なんて言えなかった。案外私は寂しがり屋なのかもしれない。


「 はい。ありがとうございます」
「それと提案があるんだ」
「何でしょう?」
「これから一緒にいるんだし、苗字にさん付け、というのは呼び合うのは距離を感じないか?」
「えっ」


私からすれば赤司さんは年上の方なのだからそれが当たり前だし、しなければならないことだと思ってる。でも、彼自身、それは、嫌なのだろうか。


「年齢関係無しにね」
「えっと……何と呼べば」
「好きに呼んでくれて構わない」
「えっと、じゃあ、え……あ、赤司くん」
「何だい、佐倉」
「……」


持ってた本を膝から滑らせ足の上に落とした。声にならない声で悲鳴をあげる。今まで距離や壁、溝があった呼び方でお兄さん、という認識だったのに何故か今一瞬男性に見えた。
呼んだ本人は読んだ本人でしらっとしていて、何も突っ込めなかった。


「足、平気か?佐倉さん」
「今……」
「本を落とすほど、嫌な思いをさせてしまったね」
「いえ!そんなことは、ありません!!!」


わざわざ本を拾ってくれた赤司さん……赤司くんは顔を上げてクスリと笑った。笑われてしまった羞恥に赤司くんから顔をそらす。
年上の人をくん呼びって、なかなか出来ない体験ですごく恥ずかしいのに笑われた方が恥ずかしい。勢いあまって言うんじゃなかった。



「君はどちらがいいかな?」
「えっと……それは……赤司くんが好きな方でいいです」
「そうか、じゃあ佐倉でいこうかな」


その返答に少しだけ落胆した。名前で呼んで欲しいと言う思いが少なからず心の端にあったからだろう。


「それと、慣れたら頼と呼んでも構わないかな?」
「! はい、勿論」
「ああ、それと敬語もやめようか」
「へ!?流石にそれはっ」
「俺が嫌なんだけど……ダメかな?」
「あの、や、了解、です」


男性に綺麗、と使うのはおかしいのだろうか。でも、赤司くんはそれがしっくりくるのだ。綺麗に笑うのだから。


「ゆっくり慣れていってくれればそれでいいから」
「あ、はい……じゃなくてうん」
「じゃあ、荷物はどうする?取りに行くのかい?」


話は変わって私の部屋に置く荷物のこと。すべての荷物はルームシェアをしていた部屋に置かれたままだ。引き払う前に彼氏に監禁されていた為何も結局できていない。


「いえ、引越しのプロに頼むことにする」
「そうだな、それがいい。だが、どの荷物が自分のだ、なんて引越しのプロでもわからないと思うんだが」
「あ、それは、えっと」
「着いていくよ」
「え?」
「顔に出てた」


そう言われてしまうとバッと顔を両手で隠すしかない。その行動にまた笑われて私は顔を赤くする。ここに来てから笑われてばかりだ。やっていけるか心配になった。


「じゃあ、部屋探しが終わるまでお世話になります」
「え?」
「え?」
「ずっといてくれないのか?」
「へ!?」


眉を下げてまるで捨てられた子犬のような顔をして私を見る。それはそれは、可愛いもので。
そんな顔をされてもダメなものはダメである。生活費とかその他諸々お金がかかるのだからそんな甘えたこと言ってられない。迷惑をかけるのだから。そう伝えれば彼は私と同じ目線になるためか、腰を折った。


「俺がいつ迷惑だって言ったんだい?」
「いや、それは赤司くんは赤司くんの生活がありますし」
「構わないさ。それに、こんな大きな家に一人というのはなかなか寂しいものだよ」


じゃあ、何故この家を買ったの。


「赤司の家が所有していたからね」


ああ、そう言えば赤司くんはお金持ちだったんだと思い出して納得した。でも、赤司くんにはお付き合いしたい女性などはいないのだろうか。


「いないよ。俺は基本父に選ばれた女性を好かなくてね」
「あれ、口に出てます?」
「顔に出ているんだ」


もうその頃には羞恥なんてどっかに飛んでいっていた。
クスクスと笑う赤司くんを前にして私は頭を抱えた。こんなんで、ここでやって行けるのだろうか。不安だ。いじられてばかりだったらどうしよう。


「でも、」
「ん?」
「何でもないで、す」
「敬語」
「はい。あ」


敬語使っちゃった。まぁいいか。


でも、楽しいから。それでいいや


車椅子を赤司くんの座っている椅子の真ん前に移動させた。そして彼から受け取った本をまた読み始めたのだった。




But, I say so fun.
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