sixteen 

シン、とした部屋にノック音が静かに響いた。耳が完治していればきっと大きな音だっただろうが私の耳にはそれが限界だった。


「はい」
「失礼する」


この声は緑間さんだ。開けられた扉に目を向けると緑間さんは勿論、高尾さんもその後ろにいた。明日、と言ったのにまた会うとは嬉しい限りだ。今日はもう会えないと思っていたから。


「あれ、赤司は?」
「帰られましたよ?何か御用がおありだったんですか?」
「いや、真ちゃんがね」


その名前に少しだけ吹き出しそうになって堪えた。緑間さん本人の前で笑うのは少しだけ気が引けたのだ。いや、実際は緑間さんの前で笑う勇気がなかったのかもしれないけれど。


「まあ、いい。大した用ではないのだよ」
「そうなんですか?」
「何だー安心した」


高尾さんの言葉に首を傾げる。それに気づいたのか高尾さんは肩をすくめて苦笑い私に向ける。


「俺、赤司のこと苦手なの。そんでもって怖い。だから佐倉ちゃんのこと尊敬するわー」
「人の得意不得意はそれぞれなのだよ」
「そうですよ、私にとっては赤司さんが救世主ですから」
「ま、そりゃそうか」


本当に苦手で怖いのか、先程の時は声を発しなかったのではなく発せなかったそうだ。確かに、さっきは私の知っている赤司さんではなかった。私も怖いと思ってしまったわけだし。本当は怖い人なのかも……?


「赤司さんのこと、もっと知りたいです」
「うーん、俺はともかく真ちゃんは知ってるかもな」
「教えてくれませんか?」
「そういうのは本人に聞くべきなのだよ。それに」


緑間さんの携帯が鳴る。
「失礼」そう言って病室から出て行ってしまった。電話ではなかったが、流石に患者の前で、と言うわけには行かないからだろう。画面を見て目を見開いたのは私の見間違いだったか。


「よっと、前失礼」
「あ、どうぞどうぞ」


高尾さんはニコリと笑うとため息をついた。そうとう赤司さんが苦手なのだろうか。あまり苦手意識とか人に持たなそうなのに意外だ。


「俺、真ちゃんがどれだけ変人でもやってける。でも、赤司だけはちょっとダメだわ」
「そんなに、ですか?」
「なーんかダメ」


苦笑いをこぼす高尾さんは自分の頭をかくと携帯をおもむろに取り出して私に向けた。


「ケー番交換しようぜ」
「へ?」
「まぁまぁ、今は医者と患者じゃなくて、普通に人としてさ。緑間にも言ってみろよ。多分交換してくれんぞ」
「で、でも」
「それに、何か困ったことがあって赤司に言辛い事があれば俺に連絡しろよ?ま、桃井ちゃんでもいいけどな。相談しにくい事とかあんだろ」


赤外線をして携帯の電話番号やメールアドレスを交換した。こう、新鮮だ。赤外線なんて久しぶりにやったから。普段は大体連絡取る手段なんて一個のアプリで済ませていたし、電話番号もそこに入っていたわけだからこうやって交換まではしていない。携帯を振ったり、QRコード読み取ったりで済んでたし。


「じゃ、また連絡して?」
「あ、はい!何かあったら宜しくお願いします」
「高尾。ちょっと来てくれ」
「あれ、真ちゃんもういいの?」
「ああ。佐倉、メシ食って寝るのだよ」


緑間さんがもう一度高尾さんの名前を呼ぶと力のない返事をして高尾さんは部屋から出ていってしまった。その際にまた明日、と言われたのが印象的だった。

ーーー


「高尾、さっきのはどういうことだ」
「んー?」
「あのメールのことだ」


どうやら先程席を立ち、佐倉の病室から出た理由は高尾にも関わっているらしい。メガネのブリッジを弄りながら高尾を横目で見る。


「書いてあった通り。多分な」
「確かにあいつから女の話は浮上したことがなかった。だが、そこまであいつは」
「いーや、絶対もう手遅れだね」


意味深な会話をしながら歩く二人は病院内でかなり有名である。勿論医師からも患者からも。高尾は患者から、緑間は医者から。


「緑間先生、昨日の」
「後にしてくれるか」
「高尾さん高尾さん」
「ごめんなさい!俺今忙しいんで明日っ」


だからこそ、歩いていれば何人かに声をかけられる。そして安易にプライベートな話ができないのだ。そのためかよく二人してプライベートな話しをするときは仮眠室に篭るためナースの一部からは嫌な噂をされているようだが。


「それで?どういうことだ」
「佐倉ちゃんは赤司の所にいちゃいけない」
「何故そう思った?」
「それは……」



They should not have together.
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