eleven 

目覚めたのはまったく知らない白い空間。いや、カーテンは薄ら桃色。
足と頭が痛む。体を起こそうにもいうことを聞いてくれない。


「びょー、いん?」


舌足らずの子供のようになってしまった。はた、と口を押さえようにも左手が動かない。それに、左手だけ暖かかった。
それは他人の温もりで、首を動かし左を見る。そこにいたのは赤い髪の毛をした男性。その男性が気持ちよさげに眠っていた。


「赤司さん……?」


私の手を握りながら眠っている彼。窓からの風で赤い髪の毛かが揺れ動く。
それから微かに震えた瞼は、ゆっくりと開いた。
赤い瞳がこちらを見つめ見開かれていく。


「佐倉さん?起きたの?」
「赤司、さん」
「うん、俺だよ」


霞んだ視界は段々滲んで色が混ざり合う。
左手から離れた温もりは私の頬を撫でてナースコールに何か呟き、私を起こしてくれた。


「赤司、さッ」
「うん?」
「すみません、でしたっ」
「え?」
「私、死ぬ気だった……!」


せっかく赤司さんが助けてくれた命だったのだ。生を全うしようと思っていた。でも、できない事情が出来てしまったから、だから、飛び降りて死のうと思った。死んでしまえば地獄は終わると思ったから。


「ごめんなさッ」
「いい、いいんだ。生きてくれていればそれで」
「すみませ、」


優しく引き寄せられ、赤司さんの胸元にしがみつく。暖かくて優しい赤司さん。私は、その優しさだけを求めてしがみついて泣いた。息を吸い込む度に胸元が痛んだ。それでも、赤司さんの温もりを感じていたかったから。


「赤司さん、赤司さん……」
「ん?」
「赤司さん赤司さん……!」
「 ここにいる」


赤司さんが離れて緑間さんが病室の扉をあけ顔を出した。ここは緑間さんのいる病院かとようやくわかった。ただ、何を言ってるかはわからない。補聴器は何処にやったのだろうか。


「赤司、席を外してもらえるか」
「 わかった」
「すまない」


赤司さんは私の頭を優しくなでて病室を出ていってしまった。緑間さんと二人だけというのは少し、いやかなり気まずいというか何と言うか。
でも、扉が開き、入ってきたのは桃井さんと黒子さん。


「こんにちは、聞こえるかな?」
「……すみません、聞こえなくて」


黒子さんが眉を下げながら何かを言ってくれたが未だに耳は治らず、聞こえないままだ。いつもは補聴器をつけたら少しは聞こえるんだけど。今は生憎補聴器がないから何も聞こえないけど。


「まだ治ってなかったのだな」
「みたいだね。でも、携帯で会話したらいいから!ほら、テツくんも」
「ええ」


黒子さんは黒いスマートフォンを弄る。画面をタップする音ももちろん、桃井さんや黒子さんの声も聞こえない。


【私の事覚えてる?】
「あ、はい。桃井さんですよね?すみません、あの時服借りっぱなしになってしまって」
【いいのよ!気にしてないもの。それに桃井さんなんて堅苦しいから名前で呼んで?】
「さ、さつきさん?」
【もう、さん付けはいいのに】


さつきさん、は優しくてニコニコ笑いながら携帯をこちらに見せる。大きな文字に設定してくれたのかとても見易い。ただ、何故さつきさんと黒子さんがいるんだろう。それに赤司さんまで。
疑問に思っていると、さつきさんのピンクのスマートフォンの画面がこちらに向けられた。


【ごめんね】
「え?」
【勝手ながら佐倉さんの体を見せてもらいました】
「!……から、だ」
【事故では付かない場所に痣があった。しかもそれらは自らの意思でつけるのが難しいところだと、緑間くんから聞いてるの】


怖かった。この人が、さつきさんが。無意識に胸元の服を握る。その部分に波打つようにシワがよった。


「それは……!」


【怖かったでしょう?】


「え?」
【怖かった、違う?だって佐倉さん、震えてる】


胸元の手に重ねられたその手は赤司さんのように冷たくて、それでいて暖かい。労いの言葉をもらうだけで、少しだけ心が楽になった気がする。


【何があったか、なんて無粋なこと聞くつもりはないの。でも、話せば楽になることだってある。誰だっていい、大切な人でも家族にでも、誰だってあなたの話に耳を傾けてくれるよ】


大切な人、家族
その単語に吐き気がした。大切な人にやられたと言ったら?家族はいないと言ったら?さつきさんはどうするだろう。
でも、大切な人はいなくても話を聞いてくれる人はいると思った。一番に浮かんだのは赤司さん。それに、この場にいる皆さん。


「 そうですね」


やっぱり言えない。
同情の目で見られるのは辛い。それに、話せるほど、この人達は親しくない。ただ、私を助けたというだけのそれだけの接点。大きいようで小さな接点だ。
あの雨の日、あそこを通ったのが赤司さんだったというだけ。


【うん、何かあれば呼んで?話を聞くくらいしかできないけれど】


手帳に何やら書いて、その書いた紙を破ったさつきさん。その紙を私に差し出す。ごめんね、と口が動き握らされたそれは桃井さつき、と書かれその下にはアドレスまで書かれている。可愛い、女の子らしい字体だった。


「ありがとうございます」
「どういたしまして」


緑間さんは病室から出ていき、その後さつきさんとと黒子さん私だけになってしまった。携帯をこちらに見せるさつきさんと黒子さん。二人の話からわかった事は、みんなバスケ繋がりで、黒子さんはミスディレクションという技を使えると聞いた。全く分からなかったけど、そんなすごい能力の持ち主とは思えない、細くて白いのに。
さつきさんも情報収集が得意で青峰さんの幼馴染み。


「皆さん、仲がいいんですね」
【ま、私達はよく会ったりするけど他は知らないよ】
【確かにそうですね】
【あ、ねぇ、頼ちゃんって何歳なの?女の子に聞いちゃダメなのはわかってるんだけど……】


仲良くなってさつきさんは私を名前で呼んでくれふことになった。
二人の疑問にすぐ口を開いて答える。


「24です」
「「え"」」


あ、赤司さんと同じ間抜けヅラ。


「……嘘、ですよね」
「え、私てっきり……同い年くらいかなぁなんて思ってたのに」
「え?あの、聞こえないです」


額に手をつき、ため息をついている黒子さんと目を見開いているさつきさんを見て少しだけ吹き出してしまいそうになったのは二人には秘密だ。




The nice it When you are not me alive.
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