nine 
それから、緑間さんの所へ戻った後、聞かれることに答え続けた。カルテに淡々と書き込んでいく緑間さんの眉間には深くシワが刻まれている。それはどんどん私の不安を煽っていくものだった。


「赤司、彼女は全く聞こえていないというわけではないのだよ。しかし、聞こえる音は我々が騒音と呼ぶものしか聞こえん。とても大きい音が彼女にとっては囁き声のようなものだ」


緑間さんは後ろに座っている赤司さんに真剣な顔つきで何かを告げる。後ろを振り向けば赤司さんの顔は緑間さん同様、眉間にしわを寄せ、腕を組んでいる。だが、私が見ているのに気づいたのか、笑いかけてくれた。


「あの、」
「どうした?」
「え?あ、私は……」
【突発性難聴という病名を聞いたことがあるか?】
「と、突発性……難聴、ですか?」


聞いたことはないし、まず聞きなれた言葉じゃない。病名も全く知らないし、興味を持ったことがない。
知らないと首を振る。


【胃腸炎になったと言っていたな】
「はい」
【朝、耳鳴りがしたりした】
「はい」
【膜が張ったような感じを耳に覚えたこともある】
「ええ」
【その全てが突発性難聴に鳴る患者の多くに当てはまる】


緑間さんの話によると突発性難聴はまだどんなものかわからず、治療法もはっきりとわかっていない。薬を飲んで安静にするか、ストレス性の場合ストレスを感じさせない場で落ち着いて暮らすしかないと言われた。


【赤司に会う前、何があった】
「!……それは」
【言えないか?それとも赤司に席を外してもらうという手もあるが】
「言えません……」
【そうか。ただ、ストレスを感じているのならば、感じない場所にいた方がいい】
「は、い」
【自分がストレスを抱えているとわかっているのか?】


打ち込まれた文字をただ目で追う。そして、その言葉に頷き、横に振り、口を開き閉じる。それを繰り返してついには俯いた。


「 ストレスは小さなときからあったと思います」


きっと思ったより声は震えていなかっただろう。しっかり声は出ていたはずだ。


「それが今になって爆発しちゃったんだと思います」


緑間さんはそれ以上何も聞いてこなくて、赤司さんも何も言わずに私の手を取り家に一緒に連れ帰ってくれた。
そして翌日、朝の3時。私は机の上に紙を一枚置いて赤司さんの家から出た。勿論、もう会うことのない桃井さんや黒子さん青峰さんにもお礼の言葉をその紙の上で述べた。たった、たった2日程この家に、赤司さんと一緒にいたが、その時間だけが幸せだった。


「赤司さん、ありがとう」



Thank you, gentle person. This two-day, was happy.
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