7話

玄関から入って靴を脱いで、すぐそこにある居間にそろりそろりと足を運ぶ。


「ばーあーちゃん!」
「!#name2#、いらっしゃい」
「びっくりした?」
「したよ、そりゃもう心臓が止まると思うくらい」


髪の毛は染めてあって黒い髪。化粧もちゃんとしていて、いつも誰が来てもいいように綺麗なばあちゃん。私はばあちゃんっ子だった為、昔からばあちゃんの隣にいたが、少し皺が増えたくらいで後は何も変わっていないように見える。腰も曲がっておらず、健在だ。


「止まったら困るべ」
「でしょう?#name2#と一緒に住めなくなっちゃうからね」


じいちゃんは私が3歳くらいの時に他界したらしい。らしい、というのは私がお母さんから聞いただけで、じっさいじいちゃんにあった時の記憶があるか、なんて聞かれてもない。一切じいちゃんに抱っこしてもらった記憶も何かしてもらった記憶もない。ということで、じいちゃんは写真でしか見たことないわけだ。今はばあちゃん一人でこの家にいる。


「いや、#name2#がきてくれて嬉しいよ」
「本当に?そりゃよかった」


別に昔からなにか買ってくれたわけじゃない。モノで釣られたわけではなく、ただ単にばあちゃんが優しくて好きなんだ。基本人の笑顔が好きな私はばあちゃんの歯を見せてニコリと笑うこの笑顔が好きだった。


「荷物は送られてくるんだったね」
「そうそう。学校のものは?」
「届いてるし、教科書も取りに行っておいたよ」
「ありがとう!ばあちゃんっ」
「いいえ、どういたしまして」


そう言って台所に消えていったばあちゃん。そして出てきた時に持っていたのはシフォンケーキ。


「!私の好物覚えていてくれたの?」
「当たり前。ほら、座って食べなさい」


しかも生クリーム付き。ちょっと、いやかなり嬉しい。シフォンケーキを写真に収め、黒尾に送ってやる。ちなみにこれはばあちゃんの手作りだ。今度作り方を教えてもらおう。


〈何だ、これ。めちゃくちゃうまそうじゃん。お前が作ったの?〉
〈残念。私料理好きじゃないからこういうのハードル高過ぎ。できないよ〉
〈マジ?女って誰でも料理できるもんだと思ってたんだけど違うんだな〉
〈バカにしてる?絶対ニヤニヤしてるでしょ〉


言葉を送り、フォークを持ちシフォンケーキにさした。程よい、私の好みの甘さ。あまり甘いものが好きではない私にとってはとっても美味しく感じる。甘党の母によると味気ない、と失礼なことを言うのだ。


「お、おいしいッ」
「ははは、それは良かった。#name2#が来るからって張り切ったからね」
「ありがとっ」
〈おい、無視すんなよ。悪かったな〉


携帯が音を立ててなる。画面を見ると黒尾から。その言葉の次に送られてきたのは絵文字。その言葉と絵文字に笑ってしまった私もいいよ、そう送り部屋に入った。


「今日からここが私の家か」


今までフローリングだったが、畳になり、更にベッドから敷布団に変わった。ただ、ベッドが届くまで、という話だ。別にベッドでなくとも良かったのだが母が慣れないから腰を悪くしたりしたら大変だと言い、近々カーペットとベッドが届くはずだ。過保護にもほどがある。


「何かいるもんある?」
「んー、無いかな」
「あったらまた言ってちょうだいね」
「わかった」


畳に寝転がる。懐かしい、そう感じた。
そういえば及川の部屋も畳だったのだ。だからか、懐かしいと感じたのは。彼は良く寝転がりながらボールを触っていた。結局あの別れ方をしたまま何も話していない。面倒くさいのはわかっているし、一々そんなことで謝らなくてもいいと思ってしまった自分がいる。それに何故こちらから謝らなくてはならない。私は悪くない。ただ、面倒くさかっただけだ。それがいけなかったのならば、世の中の人間面倒くさがった奴らみんながみんな謝らなければならないことがたくさん出てくるだろう。


〈#name2#〉
〈思ったけどなんで名前?〉
〈そうしたらお前も俺のこと呼んでくれるかな、と〉
〈呼んで欲しいの?〉
〈ああ〉


こうやって会話していると、彼の声が恋しくなってしまう。声を直接聞いて話したかった。


〈黒尾ん家行って孤爪くんに会いたい。だから会おう〉
〈は?〉
〈今家でしょう?だったら孤爪くんと会ってみたいし連れてってよ。音駒高校の前で待ってる〉


一方的にそう送り付けてコートを羽織る。まだ寒い季節なのだ。必需品となってしまうのは仕方のないことだ。


〈え、決定事項?〉
〈孤爪くん、いるんでしょう?そこに〉
〈…わかった。待ってろ〉


ばあちゃんに出掛けてくる、と伝え家から出る。ここら辺を歩くのは久しぶり過ぎて迷いそうだ。ああ、こういうのをフラグと言うのか。迷わないようにしよう。


「音駒高校の場所」


携帯で調べて歩き出す。
意外と入り組んでるな、初日は早く出よう。迷ったときように。面倒くさいし、眠いかもしれないけれど、入学式というものは寝るものだと思ってしまっているので、多分気兼ねなく寝る。


〈まだ?〉
〈え、もうついた?〉
〈まだ〉
〈焦るからそういうの辞めてよ。意外と遠い、こともなかった。今着いた〉


着いた、そう打とうとした時に黒尾から着いたと連絡が来た。今打った文面を送ると了解の文字。その文字と、携帯から顔を上げ見えたそのツンツン頭に笑った。
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