6話

次会うのは何時になるだろう。そう思って携帯を取り、黒尾にかけ直す。

「あ、黒尾?さっきはごめんね」
『いや、構わねぇよ。こっちこそ、悪かったな』
「いいよ、わかんないでしょ?こっちのことなんか。仕方ない仕方ない」

喋る度に息が白くなって吐き出される。それを見て震える。見ているだけで寒い。夏も得意ではないが冬の方が得意ではない。不得意過ぎて死にそうだ。

「寒い。死ぬ」
『寒さで死ぬ人間なんていねぇよ』
「寝たら死ぬ」
『まぁ、そうかもな。でもお前、起きてんじゃん』

確かに今も立って歩いている。死なないか。
家に帰るまで本当にどうでもいい話をしていた。ただいま、と家に入ってもまだ電話していたし、今も電話している。黒尾はあまりお喋りをするようには見えなかったが、かなり喋るほうだった。会話が続く続く。ちょうど話題が尽きそうな時に切り上げる。彼は話すのが上手く、世渡りが上手そうな人だった。

『それでよ、研磨が――』

黒尾の話の中に出てくる研磨。どうやら無口のようで私のように良く話しをする人が近くに来て嬉しいらしい。

「そうそう、セッターなんだよねその子」
『おう』
「会って話してみたいな。今度会いに行くよ」
『え?別に良くね?』
「え、そんなに話に出てきて会わせないとか
架空の人物?」

クスリとバカにしたように笑うと、黒尾が電話越しにいじけたのがわかって笑いながら謝った。今度は笑いながらというのが気にくわかったらしく、電話を切られてしまった。あんな体格で顔してるのに案外子供っぽいところがあるのが可愛い。ギャップ萌えというやつなのだろうか。それ自体なんなのかわかっていないけれども。

「え……」

〈これ↓研磨な〉

緑の枠の中には黒い髪の毛を無理やり上げさせられ撮られたものがあった。アプリケーションを起動してこちらも画像を送ってやった。及川と一の写真だ。
一に無理言って、中一の時に撮ったプリクラ。

〈研磨くん、可愛い顔してるね。懐いてない猫みたい〉
〈飼い主、俺?〉
〈そうなるんじゃない?てか今撮ったの?〉
〈なう〉

なうとか、黒尾が使うと思ってなくて吹き出してしまった。え、何で、男の子でも使うのだという偏見からくる笑いは失礼かもしれないが、こういうのも、可愛いなぁ。本当、黒尾ってかっこいいのか可愛いのかわからない人だと思う。

〈今吹いたじゃん〉
〈え、マジ?笑えた?〉
〈黒尾がなうとか言うと思ってなかった〉
〈そーかよ。てかお前、顔幼いな〉

ベッドに寝転がり、携帯を顔の横に持ってくる。自分の送ったプリクラを見る。及川も一も、幼くて、言われてみれば自分もこんな顔をしていたな、と思い出す。

〈そう?〉
〈どっちが及川クン?〉
〈左の笑顔の方。右は一。プリクラ初めてだから顔強ばってんの〉

あの時を思い出すと笑みがこぼれる。楽しかったあの頃。でも、楽しみにしていた中学生活とはこんなにも地味で、つまらないものだったのかと落胆した。私の肩に回っているその手。いかにも仲良しです、て感じがする。こんなにも仲がよかったのに、いつの間にか私が二人を避けてしまっていた。

〈いいじゃん、仲良さそうで。てか及川クンイケメンだな、おい。モテるだろ〉
〈ウザイほどに〉

こうやって、業務的な言葉を相手に送る以外に話したのは久しぶりだった。楽しいし、笑ってしまっても黒尾がいじける事なんて何一つない。

〈ごめん、母親呼んでるから行くわ〉
〈行ってらっしゃい。またこうやって話そうね〉
〈バーカ。これから話せるだろ〉

そう言われたことに嬉しさを感じて口元がゆるんだ。

〈あ、そうだ。また名前で呼べよな〉

そう言われて何故か顔が熱くなった今日この頃。
そして、お前もイケメンだと思ったのは秘密にしておこうと思う。
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