50話

帰ってきた2人は傷だらけ、そんなことを想像していた私は心底ほっとした。あの場から足早に逃げ、教室に帰れば顔色の悪さを指摘された。
だが、案外2人は平然と戻ってきた。そりゃもちろん、2人の仲は見てられないくらいだったが。いつもなら隣を歩くはずの2人の間には見たことのないほどの間があった。やっぱり喧嘩したんだな、そんなことばかり思ってため息が漏れた。

「鉄朗」
「ん?」
「……」

―やっぱり知ってたの?

そう聞くのはやっぱり忍びなくて、鉄朗に嫌な思いをさせてしまうのが嫌で。

「……何でもな」
「知ってたよ」
「!……そっか」
「夜久みたいに怒んねぇのな」

辛そうに笑う彼は私の幼なじみに重なってみえた。
見ていて辛く胸が苦しくなるそれは見ていたくなくて、彼の腕をぐっと引いた。

「どうした?」
「その笑い方、嫌いだ」
「何が?俺はいつも通りですよー」
「何で黙ってたのとか、教えてくれなかったのとか、そんな野暮なことは聞かない」

鉄朗が黙っていることで苦しんでいただろうし、その苦しみを思い起こさせるなんてことはもうしなくてもいい。でも、でもね、

「鉄朗も梨花も、もう少し頼ってよ……」

友達でしょ、そんなことを言うような軽い思いじゃない。うまく言えないけれど、どうしようもできないけれど、でもそれでも、秘密にしてる側も辛いし、何も知らない側もきっと辛いのだろう。

「私も同じこと、してたよ。梨花と同じ」

今思い返すと及川徹に何も言わないでおこうと意地を張っていたあの頃、少しだけ、ほんの少しだけ苦しかった。

「今思うとさ、結局どっちも傷つける。言っても言わなくても両者ともね。知っているからこそ、気づけなかった。そんな自分を殴ってやりたい」

私が気づけば、こうやって鉄朗に辛そうな顔をさせることもなかった。

「無理して笑わないで。誰も悪くない。言わなかった梨花が悪いわけでも、鉄朗が悪いわけでもない。私だって昨日知ったんだから」
「……ああ」
「何も鉄朗は悪くないよ」
「あぁ」
「……辛いね」
「ッ……あ、ぁ」

誰も悪くないのだ。

「よく夜久に殴られなかったね」
「部活で支障、出したくないんだと」
「夜久賢いね」
「本当に」

悲しみは皆平等にやってくる。
鉄朗の手を強く握った。
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