49話

朝礼が始まった時、担任の山内先生の口から出たのは梨花が引越しをした、暗そうな顔でそういった先生。教室がざわつくがそれを注意しないのは、生徒の気持ちが少しはわかるからだろうか。

「なんで」
「夜久……?」
「今まで黙ってたんですか!」

椅子が教室の床の上を滑る音が大きく響く。後ろの席にその椅子がきつく当たる。
夜久がこうやって怒ったように声を荒らげることなんてあまりない。いや、バレーではそんなことないかもしれないけれども。それでも教室ではこんなに大きな声を出すなんて珍しいと言ってもいいだろう。

「……最後まで、両親に行きたくないと、懇願したそうよ」

最後の最後まで諦めたくなかったのだろう。ここを離れるのを、好きな人たちと離れるのを。そして言いづらかったのだろう。考えれば後者はわかったはずだ。でもおそらく、鉄朗は知ってた。それは何となくわかる。下を向いて、何も言わない。ざわざわとしている教室で私と鉄朗だけ浮いているみたいだ。

「なんで……」

ストンと座った彼はそれ以上何かを先生に向かって言うことは無かった。本当に梨花はあれでよかったのだろうか。私はそうは思えなかった。やっぱりどれだけ辛くても大切な人に言うべきだったと思う。でも、もうそんなこと思ったって遅いのだ。過ぎてしまったことだ、何を言っても意味をなさない。

「#name1#、知ってたの」
「……ううん、今知ったよ」
「そっか」
「うん。すごく寂しい」

ごめんなさいと心の中で謝りながら夜久の顔を伺う。悲しそうに眉尻を下げた彼に何の言葉もかけてやれなかった。

「なぁ」
「ん?何?」
「黒尾ってさ、知ってたのかな。あいつ、なんか変だったろ」
「え……どうなんだろう」

その時誰がこうなることを予想しただろうか。180近くある黒尾鉄朗と160あるかないかの夜久衛輔がこんなことをするなんて。おそらく誰ひとりとしていないだろう。もちろん、私もこんなこと想像しなかった。引っ越し、ここにはいない梨花もそのはずだ。
昼休み、すごい剣幕で鉄朗を引っ張っていく夜久の二人のあとをつけたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。

「なぁ、黒尾」
「んー?」
「お前、知ってたんだろ」
「何をだよ」
「朝比奈のことだよ!」

ごめんなさいと心の中でいうことしか出来なかった。止める勇気も、声をかける勇気も何も無い。
臆病者の私を許してください。
そんなことを思いながら影で蹲った。
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