48話

―ごめんね。

そう言って笑ってる顔を私は知ってる。及川と、同じ顔。申し訳なさそうに笑ってる顔。見たくないと思っても逸らせなかった。そこから目をそらすことは出来なくて彼女が大粒の涙を流すのを私はただ呆然と見ているだけだった。





「はいこれ、合宿のやつね」

それは他県に行くから親から判子をもらって来いというプリントだった。土日泊まりで行くのか。くばあちゃんだし、許してくれるだろう。
説明が終わり次第全員が部活を再開する。私の今日の仕事はいつもと変わらない。ドリンクとタオル渡してスコアつけてみんなの体調を見て部誌を書いて、片付けをして終わり。簡単そうに見えてとても辛いそれは時にやめたいと思う時もある。けれどそれは、楽しいと感じることの方が多いからだろうか。続けたいと思う。
それに、友人でありチームメイトである彼らをずっと見ていたいと思う。
それをみて少し自分の体が疼くのは仕方ないと思っている。

「ナイッサー」

サーブをする時になったら気づいた時は必ずいうようにしている。ただし、練習に差し支えない程度の声でだ。

「お疲れ様です!」

なんて言って先輩に頭を下げる。
そんな日常を久しぶりな感覚に陥りながらこなしていく。2日ぶりだというのに久しいと感じるのは何故だろうか。不思議でたまらない。それだけ私の日常にバレーというものが深く深く根付いているのか。

「#name2#ー、帰るぞ?」
「あ、私のこと後用事あるから先帰ってて」
「お前、平気?」
「何が」
「 連れ去られたりとかしないか?」
「なんで今上から下まで見たの、どうせチビですよ」

私の心強い見方夜久が黒尾の足、狙ったのはおそらく弁慶の泣き所であろう場所を思い切り蹴りあげる。涙目で痛い痛いと喚いている鉄朗を見るのが面白くて夜久と笑ってやった。チビをバカにするからだ。たまにはチビも役に立つはず。いや、あまりたった試しないけれども。

「ヘーキだから。じゃあ、お疲れ様でした。お先です」
「ほーい、お疲れ」
「何かあったら連絡しろよー」
「わかってる。バイバイ」

携帯を鞄からだし、梨花に連絡を入れる。すぐに既読がつき返信が来た。梨花自身も家から出て待ち合わせの場所に向かっているようだった。少しだけ早く歩こうと足を動かす。

「梨花!」
「……#name2#ちゃん」
「久しぶり」
「うん、久しぶり。ごめんね、連絡録に入れずにずっと休んじゃって」
「ううん、気にしないで!」

学校近くのどこにでもあるファミレス。
頭を下げられて慌てふためく。そんなこと全く気にしてないし、元気そうで何よりだと思った。

「あ、何か頼む?私が奢るよー」
「えっ、私が呼んだんだし私が」
「快気祝い!すみませーん」

ウェイトレスさんにコーヒーを二つ頼んで梨花に向き直る。心なしか、元気がないように見えた。まだ、全快じゃないのだろうか。無理をしているようなら電話でも、そんなことを言えばダメ、と静かに言われた。

「……いつ学校にこれそう?」

その問に返事が返ってくることは無かった。どんどん暗くなっていく顔はついにうつむかれて伺えなくなった。

「#name2#ちゃんは友達いっぱいいる?夜久くんとか、黒尾くん以外の友達」
「梨花だけど」
「え?」
「むしろ梨花しかいないから困るんだよ。梨花が休んじゃうと私一人になっちゃってさ。あ、責めてるわけじゃないよ」
「そ、か」
「うん」

湯気立っているコーヒーカップを手に取り息を吹きかける。暑そうだ、アイスにすべきだった。猫舌なのに、私。

「ごめん、なさい」
「え?」
「私、もう学校……行けないの」
「……え?」

耳を疑った。嘘でしょう、と口から自然と漏れた。無理して笑っているのが丸わかりな彼女は首を降ってもう一度笑った。

「理由、聞いてもいい?」
「お父さんの、転勤でね……北海道だって」
「うそ」
「……私だって、信じたくないよ」
「なんで学校来なかったの!?なんで早く言ってくれなかったの!?」

あ、私、最低だ。

「そんなの……言えるわけがないよッッッ!!!!!」
「何でそんな大事なこと、言ってくれなかったの……」

言えるわけないの、わかってる。そんなこと、言い出せないのが辛いことくらいわかる。
自分の心の底から大切だと思う人にはそういう肝心なこと、伝えるのが難しいのはきっと私自身が一番わかってる。
先延ばしにして先延ばしにしてそれをした自分をどんどん追い込んでいく。蝕んでいく辛さがあるのは、わかってる。

「……ごめん」
「#name2#ちゃん、は……悪くないよ。私が、言わなかったから……言う勇気がなかったから」
「でも、きつく言い過ぎた。わかってる。言い辛い、よね」
「ごめんね。」

作った笑顔を浮かべて大粒の涙を流す梨花をぼう、と見ていた私は彼女の友達でいれていたのだろうか。胸を張って友達と、言えていたのだろうか。

「ほ、北海道ってじゃがいもが美味しいの?よくお菓子、のやつ聞く」
「ッへ?あ、たぶ、ん?」
「ほ、んと?」
「う、ん」

ポロポロとお互い涙を流しながら笑って話す姿は滑稽だっただろう。

「なんか美味しいもの、送ってね。まってるから」
「わかっ、た。さがしておくね」
「うん」
「今は、ケータイとかある、し」
「離れてても友達で入れる。なんかあったら連絡するし、して?」

彼女の手を握ってこう言った。

「またね」
「うん、ありがとう。聞いてくれて、これからも友達でいてくれる?」
「勿論!」

二人でその後少し話してお代を私が梨花の反対を押し切り、払って店の前で別れる。涙は先程止まったはずなのに止まらなくなったそれはどうやって止めるのかわからなくなって躍起になってまぶたを擦る。それから、徐に携帯を取り出して思わず電話したのは

「もし、もし」
『もしも……え、どうしたの?泣いてる?ねえ、#name2#?』
「おいッかわぁ!」

なぜ彼にかけたのかわからない。ただ、謝りたかった。

「ごめ、ね……ごめんねッ」
『え、何?ごめんね?大丈夫、どうしたの?』
「何も言わずにいなくなって、ごめんなさいッッ」
『ッ』

息を飲んだ音が聞こえた。

『それだけで、お前は泣いてるの?』
「それだけって……」
『……だって、俺は#name2#をこれ以上に傷つけてたと思うから。ごめんね、#name2#。今更だけど、謝らさせて欲しい。ごめんね、たくさん傷つけて』

今度は私が息を飲む番だった。ごめんね、と繰り返されて私も謝る。それを何度も繰り返しているうちに私は家に着いてしまった。

「バイ、バイ…………徹」
『……うん、またね#name2#』

梨花の話を今度、聞いてもらおう。一と徹に、聞いてもらって、それからたくさんお礼をいおう。



「またね」

。。。

長々と友情ものすみません!でも、最後の及川徹始動を書きたかったんです。遅くなってしまいすみません……。ちなみに中学生編で、東京に行く、という話は及川が勝手に聞いたのであって、夢主の意思で言った訳では無い、ということ理解お願いします。
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