47話

部活、行くとは言ったけれど行きたくない。行ったら鉄朗に会っちゃうし避けてた意味もなくなる。

「#name2#」
「ッ−……!」
「行かねぇのか」
「い、行く」

まぁ、避けていてもいなくても黒尾鉄朗という男が私のカバンやら何やらを持って部室に行くのは当たり前だった。いつも同じ教室にいるのだから迎えに来てくれる、という表現はそぐわないがそれでも迎えに来てくれるのだ。私の机の上の荷物を手に持ち、扉の前で待ち構える。行こうと誘ってくれる鉄朗の顔は相変わらずだ。ただ、少し沈んで見えるのは私のせいなのかもしれない。

「なー」
「何……」
「避けてても部活で会うし意味なくね」
「 うん」

バーカ、と笑われたことがなんだかすごく落ち着いた。勝手に避けて勝手に自分で固まっておいて張り詰めておいて言うのなんだけどね。

「悪かったな」
「へ?」
「お前のこと傷つけたし、無視したし……悪かったな」

絶句。
今の私は本当にそれだった。謝るべきなのは私で、鉄朗じゃない。それなのに、なんで謝るの。

「私こそ、ごめんなさい」

及川とでも、いつも謝るのは及川からだった。どうして、私ってこう性格が悪いんだろう。私に非があるのに、鉄朗が謝る。それっておかしいでしょう。

「いや、お前は悪くねぇよ!?だから、泣くなって!え、ちょ、俺が泣かしたみたいだからマジでヤメテ!」
「泣いて、ない。私、ちゃんと連絡すればよかった。でも、鉄朗だからわかってくれるって勝手に思ってたから……ごめんなさい」
「お、おう。気にするな、俺も悪かったし。な?」

くしゃりとなでられた頭と笑顔が、余計に悲しくなった。そんな私の気持ちとは裏腹に彼はずっと笑っていた。

「俺がそれだけ信用されてたってことだよな。悪いな、お前のこと信じてやれなくて」
「!」

正直面倒くさい女だと自分で思った。実際そうだろうし、誰に聞いてもうなづくはずだ。なのに、彼はそんなこと微塵も言わずに、思いも滲み出さずに笑ってこういうのだ。どうして私の周りの男はこういう人が多いのだろうか。
本当に、自分が嫌になる。

「ほら、部活行く前に顔洗ってこい。俺が怒られるだろ?何#name1#泣かせてんだーってな。ほれ」
「うん。ごめんね」
「もーいいって。ほれ、はよ行ってこい」
「はは、何それ」

女子トイレまで背中を押される。背中を叩かれてしまえば中に入るほかなくて、冷たい水で顔を洗う。泣いたせいか瞼が熱くなっていた。それを水で洗うとすごく気持ちが良かった。一息ついて何してるんだと自分に喝を入れる。

「よし、いこう」

「#name2#、今度あらためてどっか付き合えー」
「仕方ないな」
「お前、なぁ」

たくさん笑ってくれる君が大好きだよ、鉄朗。
及川は笑ってくれてた。けどね、いつも申し訳なさそうに笑うんだ。眉毛下げて眉間にしわ寄せて笑ってた。それが私は苦手で、もうこんな顔を見たくないって思ってたんだった。すごく昔の話。

「あ、そういえばさ」
「おう」
「梨花から電話来てね。今日なんか話があるってさ」
「へぇ。良かったじゃねぇか。元気そうだな」
「うん。明日くらいから学校来るんじゃないかな」

鉄朗の大きな手が拳を作っていたことを私は知らない。
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