42話
ドキドキしてるのが自分でもわかる。胸に手を当てればほら、鼓動すごく速い。理由は多分今日の10時から鉄朗と出かけるから。どこ行くかとか考えていたらすごくドキドキしてしまって昨日の晩から止まらない。
「#name2#ー、忘れ物ないようにねー」
「分かってる」
「んー」
でも、どうしてこうなったんだろう。楽しみで仕方なかったからか、早く起きちゃって支度をしていて、ばあちゃんとも朝、話してたのに。なのに、何で?
「ばあ、ちゃん?」
ついさっきまで会話してたのに、ばあちゃんどうして―。
。。。
「……来ねぇ、な」
普段部活に邪魔になるからとつけない腕時計に目線を落とす。10時20分、連絡したが帰ってこない。家に行く、というのは流石に格好悪いからしたくなかった。
「暇。来ねぇかな」
今日はどこに行こうと昨晩から考えたがなかなかプランなんて決まらなくて、その場のなるようになる、で決めようなんて思ったりもした。一様、決めたのは決めたようだが。
11時00分、寝坊かと思って電話もしてみたが出る気配は一向にない。 11時30分、流石に待ってるのが辛くなりそこら辺の店にいる、なんて連絡したが既読はつかない、返事は帰ってこない。12時00分、自身の腹の虫に負けてファストフード店でハンバーガーを買い、彼女のいるはずの家に向かった。
「誰もいねぇじゃねぇか」
インターフォンを鳴らしても出る気配のないその家は無人だった。
。。。
初めてのことで、どうしたらいいのか分からなかった。とりあえず震える手で子機についてる数字を押す。119、その三つの数字を押すのでさえ永遠の時間に感じた。
声が、震えた。
「たす、けて」
『火事ですか?救急ですか?』
「きゅ、きゅうきゅ」
息がうまくできない。私じゃないのに、目の前のばあちゃんのために電話してるのに。
場所は家で住所はここで、なんて、震える声で告げて、状態を聞かれた。
「ついさっきまで、話してたのに、倒れてて……」
『呼吸は辛そうですか?』
「はい」
『頭部から出血などはありませんか?痙攣はしていませんか?』
「血は、出てません……痙攣は少し震えているような」
『お名前とお電話番号を教えてください』
それからは早かった。救急車の音が聞こえたら誘導すべく家から出て、ストレッチャーにのせられたばあちゃんにずっと呼びかけていた。初めて人が死ぬかもしれないという状況に立ち会って何も出来ない自分に嫌気がさした。もしばあちゃんがいなくなったらどうしよう、そんな不安が頭を過ぎった。
でも、医師の言葉に安心したのだった。
「命に別状はありません。目覚められたら呼んで下さい」
ばあちゃんの手を握って震えた。早く目覚めて欲しい、その一身だった。携帯にたくさん着信が来ていたにも関わらず、私は携帯なんて触ってる暇などなくずっとばあちゃんの手を握っていた。私にはそれしかできなかったから。
その後、ばあちゃんはケロッと目覚めてここはどこと笑った。
「ここ、病院。ばあちゃん倒れて今までずっと寝てたんだよ」
ばあちゃんは息を飲んで時計を見て私に謝った。多分、鉄朗との約束の話をしているのだろう。そんなの、いいのに。良くないけれど、私が出ていった後にばあちゃんが倒れていたと想像したからぞっとした。鉄朗に話せば鉄朗だって理解してくれるだろう。たぶん怒ってるだろうけれど。
「今日は大事をとって入院。何も無かったら明日には退院できるって」
「……わかった。今日はもう遅い。家に帰りなさい」
「うん。一応待ち合わせのところ行って見るね」
「ごめんね」
「ううん、説明したらわかってくれる人だと思うから」
病室を出た後、携帯を見れば沢山のメッセージが入ってていたたまれなくなった。
どこ?とか、腹減っからここにいる、とかそんなの。でも最後にはたった一言『帰る』とだけ書かれたそれに涙がこみ上げた。謝れば済むのに、電話しても出てくれなくてごめん、と送っても全く返事がない。走って待ち合わせの場所に行くけれど、そんな少女漫画みたいな展開なんてあるはずがなかった。これが現実であり、しかたのないことだった。
「ハァッ……ハァッ……ごめ、ん」
お願いだから、電話に出て。
むなしく聞こえるビジートーンに涙が溢れこぼれ落ちた。メッセージを入れても既読がつかなくちゃ意味無いのに。