40話

私の中に成り立っている感情はとても脆く儚くそして不安定だ。
かかってくる電話をいつも画面を見て放っておいてしまう。
名前を呼ばれれば隣に行って頭をなでられて肘おきにされる。
前者が言わずもがな及川で後者が鉄朗。好きな人が2人いる訳じゃない。かと言って心の底から及川が嫌いか嫌いじゃないかと聞かれてしまえば、嫌いじゃないけど嫌いと曖昧な返事を返すだろう。私は、こんな優柔不断で最低な女なのだ。

「じゃあ、次は合宿かなぁ……また話そうねぇ#name2#ちゃん」
「うん、雪絵ちゃんもかおりちゃんも宜しくね!」
「またね!」
「またねぇ」

木兎くんとも暑い握手を何故かされて彼ら梟谷を見送った。私達は本当に1セットしか取れなかったけれど、きっと合宿では変わる。そう信じて、彼らを笑って見送った。

「あーぁ、出たかった」
「あはは、だろうね。夜久も出たかったでしょ?」
「ボール拾いたかった……あの中に混ざってやりたかった」
「次合宿あるらしいからそれで頑張って」
「おう」
「夜久も海もねー?」
「当たり前!」

体育館を片付けているのは1年生のみ。しかも、数名で他の者達は帰ってしまった。だだっ広い体育館をモップかけに走り回る。最後はちゃんと施錠されているか、部室と体育館を確認して学校の門をでる。それまでが長いなぁ、と思ってしまう。
中学の時はいやいやでも残っていたし、全員でちゃんとやっていた。それに、その方が効率が良くて帰れるから。勝手に帰れば怒られてたからね。

「じゃねー!また明日」
「おつかれー」

夜久とは少し行けば離れてしまう。帰り道が違うのだ。Y字路では私たちが右で夜久が左だから。まぁ、少ししてしまえば私たちも離れるのだけれど。

「こうやってふたりで帰ってるとさ」
「んー」
「付き合ってるみたいだけどさ」
「ぶふっげぇほっ」
「ん?どうした?」
「鉄朗こそどうしたの!いきなりそんな事言うなんて誰が思うと思う!?」
「いや、別に?何をいおうが俺の勝手だろー?」

別に二人の距離が近いわけでもない。遠いわけでもない。ただ、普通に隣を歩いて帰ってる。私が歩道側で鉄朗が車道側。これはずっとそうだ。女の子慣れしてるのかな、なんて思った時も何度かあったが、バレー一筋の彼がそんな事もないだろうと思った。

「で、身長差的に兄妹にも多分見えちまうよな」
「縮め」
「それ望めないからな?もし望めるなら、お前がデカくなるくらいだわ。もうすぐ身体測定だろ?身長伸びてるといいな」
「どうせチビだわ!」

そう言えばずっとそうだったな、なんて思い出す。及川と、一といた時もチビだとかさんざん言われて弄られた。二人ともまだ180行ってないとしても170は中学であったのだ。それの横に150ギリギリあるかないかの女が立ってる、そりゃ余計小さく見えるよね。多分150無かったし。

「いいじゃん、ちっさい方が可愛いってよく聞くし」
「それとこれとでは話が別なの。隣に立つ人が大きすぎたらそれはそれで可笑しいじゃん」
「そうか?」
「うん。人にグチグチ言われるのがいやっていうか」

「別に付き合ってる本人達には関係ないだろ。他人にとやかく言われてそれで別れたのはそいつらがちゃんと相手を好いてなかったってことだよ」

鉄朗が、なんだか真面目に見えた。珍しくすごくいいことを言った気がする。どうしたの、鉄朗さんや。

「お互いが好きあってたらいいじゃねぇか」
「 そだね」
「そーそー」

手を頭の上で組んでいる彼が、いろいろ考えているんだと知った今日この頃。テスト返却という名目を忘れていた私でした。

「ぁぁぁああ、テスト……」
「あー、#name2#チャン忘れてたんですかぁー?」
「そのキャラウザイからマジやめて」
「酷いって」
「女声なのがいちいち気に障る」
「いや〜ん、ひ・ど・い!」
「もうやだ」

勝ってる気もしないけど負けてる気もしない。つまりはどっちもどっち。同じぐらいだと信じて、今日はベッドに入ろうじゃないか。
鉄朗と分かれて携帯で時間を確認すれば18:43との表示から《及川徹》への表示に変わった。

「もう、いいじゃん……いい加減諦めてよ」

着信拒否ができない私を許してください。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -