3話
断っているのにも関わらず、何度も白鳥沢からスカウトが来ていた。そろそろ行く高校を決めなくては面倒くさいことになる。このまま白鳥沢には行きたくない。だからと言って行きたい高校もない。
「別にあんたは無理してバレーをしなくてもいいんだよ?」
試合に来てくれていた母親。私がもうバレーを辞めたがっているのを知っていた人だ。及川は尚もしつこくバレー部を辞めたことに怒っている。もう一度入れと。もし入らなくても青葉城西でバレー部に入れとあの男は言った。
何故私の気持ちも考えてくれないのか。
「でも、もしよければ東京の音駒高校に通ってみる気、ない?」
「東京?」
「決まってないならって、私の母校よ。娘さんが迷ってるならどうかって先生に言われてね」
母さんから音駒の話は散々聞いてきたつもりだ。音駒のバレー部だった母さん。その時代にまだリベロという制度はなかった。今、変わってしまっているバレーに驚いたらしいがそれでも好きな気持ちは変わらないという。
聞いた感じではいい先生が多く優しいと聞く。白鳥沢よりも、青葉城西よりも、私はそっちの方がいい。
選択肢はひとつだけだ。
「行く。もうそこでいい。お母さんの母校で」
「わかった」
「ありがとう」
リビングから出ようとしたとき背中に母親の言葉がぶつかった。
「徹くんに、言わないでいいの?」
ああ、さすが母親だな。私が考えてること、ちゃんと言ってくれる。
もちろん私は及川に言うつもりなんてない。一には青城ではないと既に伝えてある。言うのはどこの高校だということだけ。白鳥沢かもしれないと言ったときは顔が歪んだ。多分、及川に言えばそれの倍は歪むだろう。
「一には言うよ」
「徹くんは?」
「及川には言わない。言っても言わなくても変わんないから」
今の現状が。変わらないに決まっている。もうあの男の作った笑を見たくなかった。正直に言ってしまえばあの笑は昔、私には向いていなかった。だけど中学に入ってからあの男は私にもあの笑を見せるようになった。一や部活の一部の人間にも見せるのに、私には見せてくれない。所詮、及川にとってはそこらへんの自分の取り巻きの女子と同じ扱いだったのだ。
「言ったげなさいよ」
その言葉を背にして私は階段を上り、自分の部屋へと入った。ベッドに倒れ込む。
「ッ馬鹿。本当に、馬鹿」
素直になれない私が。
周りの女の子と同じ扱いをした及川が。
馬鹿なのだ。
及川なんて大嫌い。あんな人大嫌いだ。女の子に好かれている及川が。私に構ってくれなくなった及川が。バレーを教えた及川が。大嫌い。あんな男は、嫌いだ。
「くそ川」
一みたいにそう言ってから枕に顔を埋めた。