33話
車道を車が走る音。グラスの中の氷が崩れる音。氷が麦茶の中に落ちる音。紙の上をシャーペンが走る音。紙と手がこすれ合う音。
「#name1#、ここ違うぞ」
「夜久、意外とあってんのな」
「ちょっと勉強してたし。俺お前らに巻き込まれただけだから」
「あ、鉄朗単位ミスしてる。夜久お前らじゃなくて鉄朗だけだからね」
「え、まじ?しかも#name2#俺だけに責任押し付けるなよ」
「うん。あ、ここも。文章読みなよね。押し付けてないし」
それから、私たちの話す音。回して丸つけして教え合う。なんてやったこともない勉強会をしている。お互いが皆、勉強会なんてしたことなくて勉強会って何するんだ、からまず今日はスタートした。鉄朗は研磨とやったことがあるけど何せ学年が違うのだ。教え合うなんてことは無かったらしい。
「あ、ここわかるよ。ってなんで二人共ミスってんの」
「嫌なんで反対に#name1#がわかるのかがわからない」
「夜久さりげに私のことディスったでしょ」
「んなことねぇよ」
「で、とりあえず説明は?」
「ん、ここは」
説明しながら鉄朗と距離が近いことを少し意識したりだとか。恥かしいだとか思ったりだとか。そんなことばかり思ってしまう自分が馬鹿みたいだ。自分だけ鉄朗を意識して。
てか思ったんだけど、今更だけど、「鉄朗」って恥ずかしげもなく呼んでんの。恥ずかしい、すごく恥ずかしい!
「おい、#name2#調子悪いのか?」
「 え、そんなことないよ」
「反応遅れたぞ今」
「平気平気。それよりさ、ここ何?なんでこうなるの?」
子供の笑い声と複数の足音に窓の外を見る。空は真っ青だ。
とりあえず、夜久。戻ってきて、切実にそう思うよ。御手洗に行ってしまってすごく私はこの空気に耐えられません。
「元気だよなー、子供」
「うわ!」
「んだよ」
「近い」
「いつもこの距離だって」
「嘘だー、絶対いつもよりも近い」
夜久、まだか。
「何だよ、照れてんのかもしかして」
「な、ぁ……!!?」
「は……マジですか?」
「ん、なわけないでしょうが!」
「はーい、そのピンクのオーラしまってくれ。帰ってきたんで、二人の世界から帰ってきてください」
『や、夜久!?』
「その反応傷つくからやめろよ……」
いつの間に帰ってきたのか、夜久が私たちの前に座って苦笑いをこぼす。
それにしても、ピンクのオーラって!二人の世界って!やめてよ、夜久戻って来てとか願った私が馬鹿だった。いや、戻ってきてくれてすごく助かったよ空気的に。でも、その余計な言葉はいらなかった。
「お、お手洗い借ります」
「ああ、部屋出て右」
「ありがと」
扉を後ろ手で閉めて呼吸を整える。
「心臓、うるさい」
きっと私の顔はゆでダコのように真っ赤だ。頬を挟んだ両手から伝わった熱に目を固く瞑った。
「お前、さ」
「んー?」
#name2#がいなくなり、夜久と二人でひたすらにシャーペンを動かす。
「あんま#name1#苛めてやんなよ」
「え、苛めてるつもりねぇけど」
「顔真っ赤だったじゃん、#name1#」
「あれはー……しらね。てか、元はと言えば夜久が変な事言うからだろ」
「それは悪かったな」
ニシシ、と笑う彼は全く反省している様子などが無く問題集の紙を捲る。同時に黒尾も捲って沈黙する。また子供の笑い声が響いた。