2話


「しつこいな」


そう口に出ていたその言葉。その言葉に隣にいた一が首を傾げる。勿論、及川もセットでいた。そんな時にどうしてそんなことを言った理由なんか言える筈なかった。もし、一だけなら言っていたかもしれないが及川がいるのなら話は別だ。言ったら面倒なことになるに決まっている。


「どうかした?」
「別に」


ずり落ちた鞄をもう一度肩にかけ直す。その仕草を見てか、一が持つと言うが断った。そんなことを一にさせるのは気が引けてしまう。


「じゃあ、オレが持とうか?」
「よろしく」
「ええッ!まぁいいけどさ」


鞄を及川に渡してもう一度携帯を見る。母親からの連絡。

―また、きてるわよ

その文章だけで何が来ているのか。わかっていた。ただそれを無視し続けているのは私だ。
ため息をついて電源を落とす。面倒くさい。ベストリベロをとっただけでこんなに推薦がくるとは思っていなかった。


「及川は白鳥沢行かないの?」
「絶対嫌だね!ウシワカちゃんを倒すのは俺だよ!」
「あっそう」


自分で聞いておいてこの態度はないな、そう思っても仕方のない態度だった。これはこの男がモテる、という事実に気づいた時に始めた私なりの防衛の仕方だった。及川にちゃんとした返しをして、それでもし、誰かに聞かれていたら?それも女子。面倒臭いことになるに決まっている。だからこれは私なりの正当防衛。


「もー、何それ!自分で聞いておいてさ」
「いいじゃん。それより一」
「何だ?」
「青城行くって本当?」
「ああ」


そっか。なら私は一に及川をぜーんぶ任せちゃうのか。悪いな。


「ごめんね?」
「何に対してのゴメンだ、それは」
「何だと思う?」


その時、カンのいい彼は分かってしまったのかもしれない。いきなり何の前触れもなく包まれた手。そんな行動されたら誰だって悲鳴を上げるだろう。私もそのうちの一人だ。
いや、悲鳴ではないから違うか。


「ッッッ!!!!!!」


声にならない悲鳴なのだから悲鳴の分類に入ると思ったのに。違うかもしれない。


「クソ川っ」
「どこにも、行かないよね?」


何だろう、昔から私はどこにも行かない、平気だよ。そう言って欲しいのだろうか、彼は。私はそんなにもう優しくないよ。君の知っている私ではないのだから。及川徹が大好きな#name1##name2#は成長しているのだから。


「女々しいね、及川は。一を見習いなよ」


その問に、私は何も答えない。答える必要はない。


「ねぇ、一」
「……ああ」


でそれでも、手は離れなくて、あぁコイツはわかってるのかもしれない。私の決心を知っているのかもしれない。


「答えてよ」


温厚なその言葉に身が震えた。優しく言っているんだろうが何かしらのオーラが出ていた。答えなくてはいけないと錯覚させられるその言葉に手に力を込める。傍からみたら恋人同士のようなそれは全く違う。コイツの笑は目が笑っていない。よくそんな表現を使う者がいるが、この笑みを見てから言って欲しいものだ。


「青葉城西に行くから」
「ホントッ!?」
「ホントホント」


及川もこんな顔するんだね。ずっとそう言えば一緒にいたのに、気づかないね。ずっと避けてたもんね。部活では殆ど合わなかったし、気まぐれで一緒に帰る程度だった。


「おい……」


本当の事を知っている一は止めようとしたけど、私はそれを阻止した。唇に人差し指を押し当て笑いかけた。今はそんなこと言っている場合じゃないでしょう、と。そういう様に。


「……」


うなづいて私の頭に手を伸ばして置いた一。大きなバレーボールを持つ手。バレボールに触っていなきゃ気が済まなかったほどに私は


「――だっ―に」
「え?」
「何にも」


―好きだったのに。


怖くなってしまったバレー。前に人がいるのが怖い。一人で、点を稼げなんて無理な話だ。私は臆病者で、リベロで、空を飛ぶのを許されたものではないから。
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