29話

「ごめんね、ホント」


そう言って目の前で笑っているのは自分の腕の中で先程までおかしいほど泣いていた女子生徒。彼女の言っていたことは本当なのだろうか。しかし、それだったら可笑しくないか?そんなことだけで、コートに立つことが怖くなるのだろうか。


「もう平気か?」
「うん、平気。ごめんね」


眼を赤く腫らして、それをまた擦るものだから余計に赤くなる。


「もう擦るな。赤くなる。朝比奈が心配するぞ」
「あ、うん。そだね」


ああ、馬鹿みたいだ。無理やり笑って、すげぇイラつく。てか、事実を知ってる及川クンに会いたい。何があったのか聞きたい。#name2#にイラついてるんじゃない、事実を知らない自分にイラつく。話して欲しい、なんて烏滸がましいことは言えなかった。けれど、聞きたかった。
傍から見ていても、#name2#がバレーのことが好きだということもすぐにわかったし、楽しんでいるということもすぐにわかった。けれど、ボールを取って上げる度に不安そうな顔をしてボールをずっと見つめていた。
そんな顔でなぜボールを見る。震えているんだ。そう思った。


「何かあったら言えよ。聞くことくらいはできるぞ〜」

頭をなでてやれば小さく聞こえたありがとうの言葉と見えた笑顔。今、こいつが見ている景色というのはどういう景色なのだろうか。小さい小さいその身長で何を見ているんだろう。

「笑え」
「?」
「悲しそうな顔してっと余計悲しくなんぞ」
「っうん!」

俺は、もうお前のその顔は見たくない。

。。。


保健室に行けばベッドから起き上がっている瞬間を見て三人で急いでもう一度ベッドに寝かせたところだった。鉄朗が梨花が怪我したところを見たという生徒に話を聞いたところ、どうやら頭にボールが当たりそのまま気絶。その時に足を捻ったらしい。ともかく、大事が無くて良かった。


「もう、気をつけてねってあれだけ言ってたのに」
「ごめんね、#name2#ちゃん……まだちょっとクラクラするけどもう平気だよ。それに、お母さんが迎えに来てくれるって言ってたから本当に平気だよ」


そういった彼女を抱きしめて、一言。


「負けちゃった……3位だったの」


てっきり落ち込むとばかり思っていた私は馬鹿だ。


「え、3位!?凄いよ、凄い!目指すは一位!だったけど、三位でもすごいよ〜」
「そう、なの?」
「そうなのって……そりゃ、試合で三位ってすごく悔しくなる数字だけど、私たちって言ってしまえば寄せ集めのメンバーだったでしょ?そんな、夜久くんや黒尾くんみたいに大きな大会に出るためにすごく練習を積んだチームでもない。だからこそ、そこまで勝ち進んだって言うことに喜んでいいんじゃないかなぁ?」


後ろで聞こえた悲鳴と足音。一斉に病人である梨花めがけて、バレーを先程まで一緒にしていたメンバーが飛びついた。病人に抱きつくなと言いたかったが、なんせそのあいだに自分もいるのだから言うことさえもできず、言ったのは可愛らしくもない悲鳴だけだった。


「あはは、#name2#ちゃん大丈夫?」
「うん、まぁ」
「あー、みんなすごい元気でよかった」
「元気すぎるのもダメだよ」
「いいじゃん、楽しいよ?」
「まぁ、そこは否定しないけど」


そう言って笑った後、私と鉄朗、夜久は教室に戻り、私は梨花の帰る用意をしてからもう一度保健室に戻った。
その際に梨花のお母さんにあって少しだけ話をした。梨花とはまた違う、可愛らしい人だったけれど、笑窪がとっても素敵だと梨花に会ったときと同じことを思った。


「#name2#ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
「#name1#ちゃん、今度うちの家に来てね。歓迎するわ。今日はありがとう」
「あ、はい。是非」
「ええ。ほら、梨花歩ける?お母さんがおぶろうか?」


ケラケラ笑っている梨花のお母さんは、すごく若く見えた。その分、きっと梨花が大人びてる。一言で言ってしまえばお母さんは派手、梨花は控えめだ。でも、そんなところも親子揃うとまた合わさって素敵だ。


「そこまでひどくないよ、平気」
「あら、可愛くなくなったわねぇ。じゃあ、失礼します」
「#name2#ちゃん、今日はありがとう」
「うん、また明日ね」
「うん、ばいばい」


さて、と夜久と顔を見合わせ卓球の会場であ第2体育館に向かう。バレーは一番広い第1体育館で行われていた。ちなみに部活もいつもそこである。


「行くか」
「俺も行くわ」
「んー。夜久頑張ろうね。鉄朗も、頑張れよー」
「おうー」


気の抜けた返事を背に体育館の中に入った。梨花が応援にいてくれないのはとてもさみしく感じた。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -