28話

ボール行ったよー!きゃー!なんて、初心者なんだから当たり前。でも、避けないで。お願いだから、そこまでボールは怖くないから。及川のボールは怖いけれど。


「行きまーす!」
「はい!」
「上がった!」


そんな会話。でもそれさえも楽しく感じるそれは、久々にやったからだろうか。ああ、こんなに楽しいものだとは思ってなかった。

―それは、本当に?

馬鹿みたいに笑って泣いて、手を取って肩くんでそれで掛け声をかける。楽しくて離れられなかったバレー。私にとってとても大切になったこのスポーツ。

―手元を見るな、足を見るな、自分を見るな。ボールだけを見て集中しろ


ああ、うるさい。


「ボールは任せて。私がちゃんと取るよ」
「おおー!#name1#ちゃん頼もしい!」
「伊達にバレー長年やってたわけじゃないよ〜」
「よし、勝とうね!
『おう!』


みんなで泣いて笑って、円陣切って、けれど三年生にはやはり負けてしまった。三年間もあまりメンバー変わらずで強いと聞いていたから構えてたけど、それでも初心者でここまで行ったのは奇跡とでも言えよう。しかし、悔しい。負けるのがこんなに悔しいと思ったのはいつぶりか。だって、最後の大会では何も思わなかった。


「お疲れ様でした!」


ボロボロ泣いて、三年生に頭を下げて結果私たちは三位。同じ一年は五位だった。悔しくてたまらない。やるからには一位を取りたかった。


「#name1#ちゃん、有難うね。#name1#ちゃんだけじゃないよ!みんながいてくれたから、ここまで来れたの!有難う!」


リーダーがそう言えば余計に溢れている涙。私なんか、負けて悔しい!って思うだけでそこまで涙は出なかったけれど、そう言ってくれる人の元だとやはり泣きたくなるのは仕方のないこと。一番上手かった子はリーダーの胸にしがみついて泣いている。もう顔なんて見えないし、嗚咽しか聞こえない。でも、それほど悔しかった。


「梨花、見てきてもいい?」
「あ、私も……」
「あ、落ち着いたら来てあげて。大人数でってのもあれだし。鉄朗と夜久連れてくから」
「ん、了解」


後ろに立っててくれた鉄朗と夜久を連れて保健室に向かう。


「お前、女バレ入んなくていいの?」
「何、夜久。どうしたの?」
「あんなに上手いのに、勿体ないって思っちゃってさ。ごめん、気分悪くしたら」
「あ、や……そんなことないんだけどさ」


隣にいたはずの鉄朗は黙って頭の上で手を組んで前を歩いていた。夜久はずっとうつむいていてどんな顔をしているかわからない。けれど、きっと悔しそうな顔してる。


「#name1#なら、きっと女バレのチーム入ったらすごく気持ちのいいプレイをチームメイト達にさせてやれる」
「うん、」
「だから、才能無駄にするなよ……」
「それは、私がマネージャー業がグッダグダだからかな?」
「違う。ただ、宝の持ち腐れだ、あんなの」


少なくともその言葉を言われて嬉しいと思った反面、傷ついた。きっと、夜久もわかってくれてる。なんで君がそんなに辛そうな顔をしてるのかはわからない。少なくとも、夜久は私に女バレに入ってリベロして欲しいんだろうな。


「私は男バレでマネしてて邪魔?」
「違うってば。そうじゃない」
「でも、私はそう取っちゃったよ。ごめんね、ネガティブだから。それに……」


―見て


そう言ってかざしたてはおかしいくらいに震えている手。


「コートに立つには早すぎた。楽しかった反面、とても怖かったよ」


手足の震えが先程から止まらない。だから、みんなが泣いている輪を早く離れたかったという理由もあった。梨花の名前を使ってしまったのは申し訳なかったけれど、違う意味で泣きそうだったのだ。楽しかった、バレーはこんなに楽しかったのだと思い出した。でも、チラつく記憶は楽しかった記憶なんかじゃない。あの、前に誰も居ないんじゃないかっていう記憶だった。


「怖い怖い、そう思ってコートに立つ。辛くて想像以上にしんどい」


夜久は未だに私の震えている手を見つめている。まるで信じられないものを見ているかのように。


「何で、それ……」
「私は中学の時に有名な学校に負けたの。その負け方があまりにも酷かった。戦意喪失、仲間たちはもうボールを取ることも手で触ることでさえも諦めてしまった」


―前に誰もいないのは怖かったよ


私はどこで壊れてしまったのだろうか。
泣き崩れた私を受け止めてくれた鉄朗は、試合中も私が震えていることに気付いてくれていたのだろうか。背中を摩りながら手の震えが止まるまでずっと私の手を握ってくれていた。
ああ、こんなメンタルの弱い自分が嫌になる。吹っ切れない自分がクソみたいだ。平々凡々な人ならきっとすぐに吹っ切るのに。どうして私は吹っ切れないんだろう。


自分が弱すぎて、本当に嫌いになる。
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