26話

生まれてからずっと一緒だった。
これからも一緒だと思ってた。
些細なことで大喧嘩したことも、くだらないことで大笑いしたことも。もうそれらは全て過ぎ去りしこと。言葉にできないことくらいの思いで、胸がいっぱいだった。
電話を終えて、一人で帰路を歩く。隣に彼女の姿はない。

「俺こそ、ありがとう。それと、ごめんね」


初夏の青空に消えていくその言葉はいつか彼女に言えるだろうか。今まで恥ずかしくていうことができなかったその言葉。
何でも言える関係、なんてそんなの存在しない。いつしか言えなくなることの方が多くなる。男女間なら余計にそうだろう。言うことなんて簡単じゃない。


「でも、それでも……ッッ」


まだ傍にいて支えて欲しかった。一緒にいたかったんだ。たくさんの迷惑をかけた。心配ばかりさせた日だってあった。
でも、大きくなるにつれて、ぶつかることが多くなって、喧嘩して話さない、なんてよくあった。でも次の日にはどちらともなくごめんって言い合って終わってたのに。今回は長期線だね。


「好きだよ、#name2#」


まだ、過去系にするのは早い、そんな気がした。
だから、また俺の隣に戻ってきて?待ってるんじゃないよ、力ずくでも戻すから。だから、また俺の隣で笑って?喧嘩もしよう?でもこうやって長期戦になるのは嫌だ。だから、些細なことで喧嘩してさ、次の日にゴメンネって二人で言い合えるような、そんな関係に戻す。俺は、お前が大切なんだって、ようやく気づいた気持ちは止まらない。


。。。


電話した後、鉄朗とは何も話さなかった。私からも、鉄朗からも口を開く気配はなかったのだ。会話もなく、静かに体育館まで向かった。


「「失礼します!」」


その声に全員が振り向いた。そして、顔を見合わせた2年生は顔をそむける。鉄朗の頭に巻いてある包帯を見たからだろう。
申し訳なく思っているのか、ただただ後ろめたいだけなのか、それはわからない。でも、それでもこの瞬間だけは先輩なんだな、と思った。


『悪かった』


仕方なしに言った言葉。でもそれでも、仕方なしで言った言葉でも、先輩たちがそんなこというなんて思ってなかった。特に2年生。3年生の先輩がいたからかもしれないが。


「こっちもすみませんでした。迷惑かけました」
「それでも、黒尾が無事でよかったよ」


三年生のその言葉は嘘ではない。鉄朗の背中を軽く叩いたその大きな手はスパイクを打ち出している手だ。もちろん軽くでも痛かっただろう。


「今日からまた宜しくお願いします」
「よろしくな」


まだまだ、私たちの青春は始まったばかりである。これから、きっと色んな壁にぶつかっていく。鉄朗の隣に私がいない可能性だってある。バレー部を辞めている可能性だって、重たいかもしれないが死んでいる可能性だってある。だけれど、それを全部ひっくるめて青春だ。


「さて、青春しますか」
「は?何言ってんだ、お前」
「私の青春は長いかなぁとおもって」
「んなもん、長いだろ」
「そうかな?」
「とりあえず、軽くあと2、3年は続くな」
「それは……長いの?」
「短いようで長いかも知んねぇし、長いようで短いのかもな」


黒尾!そんな声がして彼は私に背を向ける。コートに走っていく鉄朗の背中は、日々大きくなっていっている気がした。そんなことないのにね。
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